• 公益財団法人 東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野

オピオイド研究

オピオイドと疼痛研究

オピオイドとは、モルヒネやフェンタニルなどの植物アルカロイドとその誘導体、エンドルフィンやエンケファリン類などの内因性オピオイドペプチド、およびトラマドールやナロキソンなど合成麻薬の総称です。 依存性薬物であるオピオイドですが、モルヒネやフェンタニルなどは鎮痛薬としてがん性疼痛治療や外科手術における鎮痛において必要不可欠な薬物です。 これらオピオイド性鎮痛薬の作用には著しい個人差があり、また様々な副作用(吐き気・嘔吐、便秘、呼吸抑制)を引き起こすことが知られています。 私たちは、こういったオピオイド性鎮痛薬の臨床上の問題点を解決すべく、“テーラーメイド疼痛治療法の確立”および“新規鎮痛薬の開発”を主な目的として、実験動物やヒト遺伝子を用いた多角的なアプローチにより基礎研究や前臨床的研究を進めています。

オピオイド性鎮痛薬の作用における個人差の原因には、遺伝子要因が含まれると考えられています。 私たちは、オピオイドの標的分子であるμオピオイド受容体の遺伝子(Oprm1)に注目し、3’非翻訳領域など遺伝子構造上の特徴をマウスおよびヒトで明らかにしました。


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これまでに、Oprm1遺伝子の塩基配列の差異や遺伝子発現の変化がオピオイドによる鎮痛作用に影響を及ぼしていることを、様々なマウス系統において明らかにしています。
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また、ヒトにおいても、OPRM1遺伝子多型が開腹手術や整形手術後のオピオイドによる鎮痛作用と関連することを明らかにしています。
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その他に、オピオイドによる鎮痛作用と関連するヒト遺伝子多型も複数同定しており、
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こういった遺伝子情報を明らかにすることにより、“テーラーメイド疼痛治療法の確立”が期待されています。

オピオイド受容体には3種類のサブタイプ(μ、δ、κ)が同定されており、内因性オピオイドペプチドと共に生体内においてオピオイドネットワークを形成しています。 オピオイドの作用にオピオイドネットワークがどのように関わっているか、各オピオイド受容体遺伝子欠損マウスを用いて解析を進めています。 また、オピオイド受容体は翻訳後に様々な修飾を受けますが、オピオイド性鎮痛薬の種類によって異なる鎮痛作用や副作用に対して、受容体翻訳後修飾がどのような影響を及ぼしているか分子機序解明を進めています。

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オピオイド性鎮痛薬の作用・副作用における分子メカニズムの解明を進め、副作用が低減した効果の高い鎮痛薬の開発に繋げていきたいと考えています。