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脳発達障害

1.脳発達障害の原因

(1) はじめに

「発達障害」という言葉を、医療のみならず、福祉・教育の分野でも耳にされることが多くなったと思われます。しかし、使われる立場により「発達障害」の意味に多少違いがあります。吉野邦夫氏は、発達障害は日本では以下の4つの意味を有するとしています。

  • 1) 知的障害(精神遅滞と同意、本稿では「知的障害」に統一)
  • 2) 幼児早期の言語や運動発達の遅れについての暫定的診断名、
  • 3) 全ての発達期の問題(知的障害、脳性麻痺、重症心身障害を含む)
  • 4) 認知・コミュニケーションの障害(自閉症/広汎性(こうはんせい)発達障害、注意欠陥・多動性障害ADHDなど)

ここでは、3) の「全ての発達期の問題」には「脳発達障害」を当てはめ、「発達障害」の方は4) の意味で用います。

ところで、小児の成人と異なる特徴に成長と発達があります。成長とは、身長・体重など量を測定できる指標が年齢に応じて増えることです。一方、発達とは、経験・学習により年齢に応じて新たな機能を獲得する過程を意味します。ともに個人差が存在します。2歳までの発達をおおまかに示しますと、以下のようになります。

生後3~4カ月 あやすと声を出して笑う、首がすわる(頸定けいてい)。
生後5カ月 喃語の始まり、寝返り。
生後7カ月 人見知り、ひとり座り。
生後9~10カ月 模倣音の始まり、バイバイや呼名に反応、はいはい、つたい歩き。
1歳~1歳3カ月 始語から4語前後まで、命令の理解、単語の理解、指差し行動、ひとり立ち・歩き。
1歳6カ月前後 2語文がみられる。
2歳前後 3語文、語彙数250~300、疑問詞・形容詞の出現、手すりを用いた階段昇り降り、他の子供に関心を示す。

本稿の前半では、先ず皆様のご参考になりますように、脳発達障害の原因となる様々な病気のうち、比較的日本での発生頻度の高い疾患を、病気が発生する時期別にご紹介します。一方、脳発達障害の主要な症状は、原因の病気のいかんにかかわらず、「知能の障害(発達障害)」、「運動障害(重症心身障害を含みます)」、「てんかん」の3つと考えられます。本稿の後半では、脳発達障害における知的障害と運動障害について、最近の知見を踏まえた解説を行いたいと思います。なお「てんかん」に関しましては、新井信隆研究員による「身近な医学研究情報:てんかん」に詳細な記載がありますので、そちらをご参照下さい。


(2) 脳発達障害の原因

様々な病気が脳発達障害の原因となりますが、病気が発生する時期から、出生前、周産期(周生期)、出生後の3つの群に分けて考えると理解しやすいです。出生前の病気は、受精から胎児が形をなすまでの遺伝子・染色体の異常(先天性代謝異常症も含まれます)と、胎児に感染症や薬物などの負荷が加わって生じる病気(胎芽病、先天奇形など)に分けられます。周産期では、新生児仮死、重症黄疸後遺症、未熟児に合併する病気が考えられます。一方、出生後の障害には、脳神経系の感染症、頭部外傷、脳腫瘍(発生は稀)などがあげられます。従来、日本では周産期の病気が脳発達障害の原因の過半数を占めていましたが、新生児医療や遺伝子医学の進歩に伴い、出生前疾患の比率が増加しています。以下に、遺伝子・染色体・脳神経系の発生を解説しながら、脳発達障害の原因となる代表的な病気を簡単にご紹介したいと思います。


(3) 出生前に発病する疾患群

A.遺伝子とその異常

遺伝子の主体は、糖の骨格に4種類の塩基が結合した核酸の鎖が、らせん状に巻き上がって形成されたDNAです(図1)。DNAは体のほとんどすべての細胞の核内に存在し、蛋白質を構成するアミノ酸を決定しています。酵素と呼ばれる蛋白質が脂質や糖類の合成・分解する化学反応にも関係しますので、DNAは細胞の設計図と呼ばれます。

脳発達障害を引き起こす遺伝子の異常としては、一つの塩基の異常から生じる単一遺伝子病(先天性代謝異常症を始め多くの病気の原因となります)、DNA内の種々の部位に存在する3塩基配列の繰り返しが異常に伸びて生じる3塩基反復異常伸張、細胞内に存在しエネルギー産生に関与するミトコンドリアの遺伝子異常によるミトコンドリア脳筋症(のうきんしょう)などが知られています。以下に3塩基反復異常伸張とミトコンドリア脳筋症を少し詳しくご説明します。

3塩基反復異常伸張
DNAには一定の塩基配列が繰り返している部分が多く存在します。近年、家族性の発病を示す神経変性疾患のいくつかで、3塩基反復が異常に伸びていることが判明しました。例えば、ルイ体萎縮症(しじょうかく・せきかく・たんそうきゅう・るいたい・いしゅくしょう、DRPLA)では、12番染色体の3塩基反復に異常な伸長がみられ、正常では10~17回の繰り返しが、60歳台に認知症や小脳失調(しょうのうしっちょう)で発病する患者さんでは50回前後に、小児期に難治性てんかんで発病する患者さんでは60回前後に、それぞれ伸びていることが明らかになりました。このように、3塩基反復異常伸張は、世代を経るごとに繰り返し数が増加し、発病が早まり症状も重症化するのが特徴です。

図1. 遺伝子と染色体

図1. 遺伝子と染色体
ミトコンドリア脳筋症
ミトコンドリアは、酸素とエネルギーの産生に関与する重要な細胞内小器官ですが、元は私達の体に寄生した別の生命体であったと推定されています(図2)。そのため、核内遺伝子とは異なるミトコンドリア遺伝子がその機能を決定します。さらに受精の際、精子由来のミトコンドリアがほとんど消えるため、母親由来の遺伝子のみが子供に伝えられる「母系遺伝」の形式をとります。ミトコンドリア脳筋症は、ミトコンドリア遺伝子の異常により神経・筋症状が生じる遺伝性疾患です。低身長、難聴、糖尿病、心臓障害を合併し、血液・脳脊髄液中の乳酸・ピルビン酸が上昇します。中でも高乳酸血症と脳卒中様症状を伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS)は、小児のミトコンドリア脳筋症の中で発生頻度が高い病気で、2~15歳頃、低身長、筋力低下、軽度の知的障害などで発病し、頭痛、けいれんなどを伴う脳卒中に似た発作を繰り返し、視力障害や運動麻痺などの後遺症を残します。最近、アルギニン点滴治療が脳卒中様発作の予防に有効である可能性が報告されています。

図2. ミトコンドリアの構造

図2. ミトコンドリアの構造

B.染色体とその異常

染色体は遺伝子を収納する倉庫にあたる構造で、すべての細胞の核に存在します(図1)。ヒトの染色体数は正常では46本で、22対の常染色体と2個の性染色体(XXが女性、XYが男性)からなります。染色体の異常には、数的なものと構造的なものがあります。正常の染色体は2個で1対をなしていますが、数的異常としては、1個のモノソミー、3個のトリソミー、正常と異常な染色体が体の各細胞で混じり合うモザイクなどがあります。また、構造異常には、染色体の一部が欠ける欠失(けっしつ)や、複数の染色体間で一部が入れかわる相互転座(てんざ)などがあります(図3)。以下に、発生頻度が高い染色体異常症を解説します

図3. 染色体の構造異常

図3. 染色体の構造異常
ダウン症候群
21番染色体の過剰により生じる染色体異常症で、知的障害の原因として重要です。発生頻度は出生1,000人に一人ですが、母親の年齢が高い程、その頻度は増加します。21トリソミー型が9割以上を占めます。知的障害に加え、特徴的な顔貌(左右の眼瞼が離れ、外側が上につり上がり、内側に皮膚のたるみがみられる、等)、内蔵奇形(心奇形、十二指腸閉鎖)、皮膚紋理異常(猿線さるせん)がみられ、時に、点頭てんかん、環軸椎脱臼(かんじくつい・だっきゅう)、浸出性中耳炎を合併します。30~40歳頃から早発老化現象がみられ、脳内に認知症に類似の病変(図4)が出現することがあります。

図4. ダウン症候群脳での神経変性

図4. ダウン症候群脳での神経変性

神経原線維変化(矢印)と老人斑(星印)

C.胎芽(たいが)病と胎児病

受精から妊娠8週の器官が形成される胎芽期や、妊娠9週から出生までの胎児期に、薬物投与、感染症、放射線照射などの環境要因に母体がさらされると、胎芽病/胎児病が生じることがあります。以前は睡眠薬のサリドマイドが、最近では抗血液凝固剤のワーファリンと抗けいれん剤のバルプロ酸ナトリウムがそれぞれ原因薬物として知られています。母体の飲酒により先天性アルコール症候群が起こることもあります。いずれも知的障害と顔面奇形が特徴です。

一方、胎盤を通して子宮内で胎児に感染する病原微生物としてはTORCHが有名です。Tはトキソプラズマ、Oは他の微生物(以前は梅毒、最近は水痘ウィルス)、Rは風疹、Cはサイトメガロウィルス、Hは単純ヘルペスウィルスをそれぞれ意味します。小頭症、脳内石灰化、血小板減少症がみられますが、先天性風疹症候群では、加えて白内障、難聴、心奇形が認められます(図5)。

図5. 先天性サイトメガロウイルス感染症の脳の割面(前額断)

図5. 先天性サイトメガロウイルス感染症の脳の割面(前額断)

脳の割面に多数の出血と破壊を認めた。

D.脳神経系の初期発生、先天奇形、MRIの有用性

胎生15日、胎芽の背中の中央に溝ができ、その両側が盛り上がり癒合し、神経系の起源である神経管(しんけいかん)がつくられます(図6)。神経管の前方と後方がうまく閉鎖しないとそれぞれ無脳症と二分脊椎(にぶんせきつい)が生じます(図6)。二分脊椎の中でも、神経組織が脊椎管に脱出した脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)では脊髄障害(運動麻痺、感覚低下、排尿・排便の異常)がみられます。

図6. 神経管の発生と脊髄髄膜瘤

図6. 神経管の発生と脊髄髄膜瘤

脳の割面に多数の出血と破壊を認めた。

次いで胎生35日頃、神経管は屈曲し、前脳、中脳、菱脳(りょうのう)の3脳胞が形成されます。さらに、前脳は終脳と間脳、菱脳は後脳と髄脳(ずいのう)に分かれ5脳胞となります(図7)。脳胞分化異常により、大脳が左右に分かれない重症脳奇形が全前脳胞症(ぜんぜんのうほうしょう)です。

図7. 脳胞分化と全前脳胞症

図7. 脳胞分化と全前脳胞症

ところで、大脳の内部には脳脊髄液(のうせきずいえき)が産生・貯留する脳室(のうしつ)があります。胎生5週をすぎますと、脳室の近くで神経細胞が分裂・増殖します。胎生2カ月以降、分裂を終えた神経細胞は脳の表面に向かって移動し始めます。神経細胞の分裂と移動は胎生5カ月頃まで持続し、大脳の表層に神経細胞が集まった大脳皮質(だいのうひしつ)を形成し、大脳表面には脳溝(のうこう)がつくられ、大脳皮質は脳回(のうかい)に分けられます。神経細胞の移動障害によって、滑脳症(かつのうしょう:脳溝がほとんどできず大脳表面が平滑な奇形)(図8)、多小脳回(たしょうのうかい:正常な脳回とは異なる小さな脳回が多数生じた奇形)、ヘテロトピア(神経細胞の集団が皮質以外にできる奇形)などが生じます。近年、頭部CT・MRIなどの画像検査により高頻度に診断されるようになりました。

図8. 滑脳症

図8. 滑脳症
参考事項1:核磁気共鳴撮像法(MRI)
頭部MRIは、磁場で活性化された水素原子からのエネルギー放出現象から脳の形態を画像化する検査で、画像が明瞭で、さらには頭部CTとは異なり、レントゲン被爆がないことから、現在汎用されています。脳発達障害でも病理解剖により診断されていた先天奇形の多くで生前診断が可能となりました。検査時間が長い、音がうるさい、金属を埋め込まれた患者さんでは使用しにくい等の欠点も改善されつつあります。
参考事項2:水頭症
脳脊髄液(のうせきずいえき)は、脳室内で産生され、脳・脊髄の周囲を循環し、その保護や代謝に関係した後、大脳表面にある顆粒様構造に吸収されます。水頭症は、脳脊髄液の産生が吸収を上回り、脳室内に脳脊髄液が異常にたまり、脳室が拡大する状態です。脳の内部の圧力が上昇する頭蓋内圧(ずがいないあつ)亢進状態が生じ二次的に脳組織が障害されます。脳脊髄液の循環の障害が原因となることが多く、閉塞性水頭症と呼ばれます。一方、産生・吸収の異常によるものを交通性水頭症と呼びます。小児では、先天奇形、脳出血、脳腫瘍、髄膜炎など様々な病気が閉塞性水頭症を引き起こします。
症状としては、新生児期から乳児期までの泉門(せんもん)や頭蓋縫合(ずがいほうごう)が開いている間は、頭蓋内圧亢進症状は呈さず、頭囲の拡大、大泉門(だいせんもん)の膨隆、落陽現象(両側の眼球が下方に沈む)等がみられます。一方、頭蓋縫合が閉鎖した幼児期以後は、成人と同様に朝に多い噴水状の嘔吐やゆっくり進行する意識障害などが出現します。さらに小児で頭蓋内圧亢進症状が長期にわたって続くと、視神経障害、低身長・性早熟などのホルモンの異常がみられます。頭部CT・MRIによって脳室の拡大を診断します。原因の病気に対する治療とともに、脳脊髄液を脳室から頚部の皮下に埋め込んだチューブを伝わせて他の体腔へ誘導する短絡(たんらく)手術(シャント)が行われます(図9)。

図9. シャント手術

図9. シャント手術

E.ネットワ-ク化とその異常

神経細胞の分裂と移動が一段落すると、神経細胞を結ぶ神経線維が鞘をかぶる髄鞘化(ずいしょうか)、シナプス形成、神経伝達物質代謝の分化などによる神経系のネットワーク化が始まり、出生後も継続します。なお、神経線維は前述の大脳皮質の奥に大脳白質(だいのうはくしつ)を形成します。

神経線維では電気信号で情報が伝達されますが、髄鞘化により伝わり方がよくなります。シナプスは神経細胞からのびた神経線維の末端が他の神経細胞に接する部分の構造で(図10)、神経伝達物質が受容体に受取られることにより情報が伝達されます。神経伝達物質の種類・作用は様々で、動物実験や病気での検討により、記憶・学習とアセチルコリン、行動とノルアドレナリン・ドパミン、意欲とセロトニンなどの関連が知られています。分化した後の神経細胞にも新たなシナプスを作る能力があることが知られ、可塑性(かそせい)と呼ばれます。障害を受けた脳が種々の刺激により回復するのはこの可塑性が関係しています。シナプスは当初過剰につくられますが、出生後減少し、12歳頃成人レベルに落ち着きます。神経伝達物質はシナプス形成にも関係します。ダウン症候群・アンジェルマン症候群などの染色体異常症、広汎性発達障害、ADHDでの知的障害に、神経系のネットワーク化の異常が関与していると推定されています。

図10. シナプスの構造

図10. シナプスの構造

F.母斑症(ぼはんしょう)

皮膚と神経を始めとする全身の器官に異常が生じる先天性疾患の総称で「神経皮膚症候群」とも呼ばれます。発生頻度が高いものに次の2つがあります。

神経線維腫症(しんけい・せんいしゅしょう)1型
フォン・レックリングハウゼン病とも呼ばれ、頻度は4,000人に一人、半数の症例が家族性で、責任遺伝子(ニューロフイブロミン)も判明しています。カフェ・オ・レ斑(直径1.5 cm以上の茶色の隆起しない色素沈着が6個以上)、皮膚・末梢神経の神経線維腫(しんけいせんいしゅ)(図11)、骨病変、虹彩の異常がみられます。神経線維腫は良性腫瘍であり、外科的に切除できますが、多数できることが多く、患者さんに美容上の苦しみを与えます(社会的差別を扱った実話をもとに作られた映画が「エレファント・マン」)。

図11. 皮膚の神経線維腫

図11. 皮膚の神経線維腫

背部の神経線維腫

結節性硬化症(けっせつせい・こうかしょう)
顔面の血管線維腫(けっかんせんいしゅ)、てんかん、発達障害を特徴とする母斑症で、頻度は3~10万人に一人といわれ、10~30%の症例が家族性で、責任遺伝子TSC1とTSC2も見出されています。幼少時より皮膚に「木の葉状の白斑(はくはん)」がみられ、4歳頃から、顔面の鼻の近くや頬にニキビに似た血管線維腫が明らかになります。大脳皮質と脳室周囲に結節ができ(図12)、点頭てんかんを始めとするてんかん発作や発達障害が出現します。一部の患者さんでは腎臓の良性腫瘍が合併します。

図12. 結節性硬化症の頭部CT

図12. 結節性硬化症の頭部CT

脳室壁に石灰化した結節(白)を多数認める。

G.先天性代謝異常症

遺伝子の異常により体内の代謝を担う酵素が欠損するため、脳神経系、顔貌、眼(角膜や網膜)、腹部の肝臓・脾臓、骨・関節などに様々な異常がみられる、いずれも稀な病気です。ブトウ糖代謝異常による糖原病(とうげんびょう)、細胞内の不要物処理に携わるリソーゾム酵素の異常によるリピドーシス(図13)、銅代謝異常によるウイルソン病・メンケス病などが含まれます。残念ながら生命的予後は不良なことが多いのですが、近年、一部の病気では、欠乏している酵素の補充療法、肝臓移植(ウイルソン病など)、骨髄移植(血液系の細胞が欠損している酵素を補う)、遺伝子治療などが試みられ、効果を上げています。

図13. リピドーシス肝臓の病理像

図13. リピドーシス肝臓の病理像

リピドーシス肝臓(PAS染色)細胞内にピンク色の物質が沈着。


(4) 周産期障害

H.新生児仮死と低酸素性虚血性
(ていさんそせい・きょけつせい)脳症

新生児が、誕生後うまく呼吸できないため生じる呼吸・循環不全です。胎児の異常、妊娠中毒症、胎盤・臍帯(さいたい)・分娩の問題などが原因となります。新生児の活動性評価にはアプガール・スコアが用いられ(皮膚色、心拍数、刺激への反応性、四肢の活動、呼吸数で評価、満点は10点)、0~3点で重症仮死、4~6点で軽症仮死とそれぞれ診断されます。出生後1分と5分で判定しますが、5分でのスコアが神経学的予後と相関します。

新生児仮死により脳へいく血液と酸素が減ると、低酸素性虚血性脳症が生じますが、日本では周産期医療の進歩に伴いその発生は減少しています。低酸素性虚血性脳症によって、大脳皮質が部分的に障害され後遺症として脳性麻痺や知的障害を示す症例(図14)、大脳の奥にあり随意運動の交通整理をしている基底核が障害されアテトーゼ型脳性麻痺を示す症例、成人の脳梗塞のように大脳が広範囲に障害され重症心身障害におちいる症例など、様々な脳発達障害が生じます。

図14. 新生児仮死による低酸素性虚血性

図14. 新生児仮死による低酸素性虚血性

脳症の頭部MRI 大脳の部分的障害

I.重症黄疸(核黄疸・かくおうだん)

母子の血液型不適合などの種々の原因により、胎児の血液中の赤血球がこわされ、そこから放出されたビリルビンにより新生児黄疸が高度になる場合があります。重症では脳の一部にビリルビンが沈着して核黄疸が生じ、哺乳力低下、後弓反張(こうきゅう・はんちょう、後方にのけ反る姿勢をとる)、けいれんなどがみられ、後遺症としてアテトーゼ型脳性麻痺を残します(図15)。しかし、血清ビリルビン値を目安に、光線療法や交換輸血などの治療が早期に行われるようになり、日本を含む先進国での発生頻度は激減しています。

図15. 核黄疸後遺症の頭部MRI

図15. 核黄疸後遺症の頭部MRI

基底核病変(矢印)

J.低出生体重児(未熟児)での合併症

在胎37週未満の出生を早産、出生時体重が2,500g未満を低出生体重児、1,500g未満を極小未熟児、1,000g未満を超未熟児とそれぞれ呼びます。低出生体重児には種々の医学的問題が生じ、神経系では、脳室近くから出血がみられ、処置が遅れると死に至ることがあります。また、大脳白質が障害される脳室周囲性白質軟化症(PVL)では、痙直性麻痺、視覚障害などの後遺症が生じます。


(5) 出生後、脳発達障害を引き起こす病気

K.脳神経系の感染症

髄膜炎
脳を包む髄膜に病原体が侵入し炎症が生じた状態で、ウイルス性髄膜炎を除くと脳自体の障害を伴います。発熱、けいれん、意識障害に加え、頭痛、嘔吐、項部強直(こうぶきょうちょく、うなじが硬くなり前屈できない)などの髄膜刺激症状がみられます。診断には、血液検査とともに、腰部に針を刺して脳・脊髄の周囲を流れる脳脊髄液を採取するルンバール(腰椎穿刺・ようついせんし)検査で、白血球数や病原体をチェックすることが必要です。ウイルスによる無菌性髄膜炎では、脳脊髄液ではリンパ球優位の白血球増加を認め、症状は軽く、通常は数日で軽快します。一方、大腸菌、B群溶連菌(ようれんきん)(新生児・乳児期)、インフルエンザ菌、肺炎球菌(年長児)などの細菌の感染に伴う化膿性髄膜炎では、脳脊髄液で好中球優位の白血球増加を認めます。原因細菌に有効な抗生物質の点滴治療が2週間前後行われますが、水頭症・脳梗塞を合併することがあり、死亡率・後遺症率(運動障害や聴覚障害)は現在でも30%近くにのぼります。また、全身の結核感染症に続発する結核性髄膜炎は、高齢者の結核再燃に伴い近親の乳幼児に発生します。早期診断されにくく、死亡率・後遺症率(水頭症やホルモン障害)が前述の化膿性髄膜炎と同様に高いです(図16)。

図16. 結核性髄膜炎後遺症の大脳割面(前額断)

図16. 結核性髄膜炎後遺症の大脳割面(前額断)

大脳の片側の萎縮

脳炎・脳症
脳炎は、ウイルスなどが脳内へ直接侵入し炎症を引き起こす、あるいは感染後の免疫反応により脳に二次的に炎症が生じた状態です。発熱、けいれん、意識障害で急激に発症し、脳脊髄液・脳波の異常に加えて、頭部CT・MRIで脳浮腫がみられます。同様な症状を示しながら、脳脊髄液に炎症所見がみられない場合、脳症と呼ばれます。いずれも死亡率が高く、高率に後遺症を残します。単純ヘルペスウイルスにより引き起こされるヘルペス脳炎では、発熱、意識障害に加え、見当識障害、人格変化がみられ、頭部CT・MRIでは側頭葉の病変が認められます。一方、変異した麻疹ウイルスの持続感染により、麻疹罹患の数年後に発病する亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせい・こうかせい・ぜんのうえん、SSPE)では、知能障害、運動障害、けいれん、ミオクロ-ヌスがみられ、急速に寝たきり状態におちいります(図17)。

図17. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の頭部MRI

図17. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の頭部MRI

大脳白質病変(矢印)

L.小児の脳出血

脳出血は、出血する部位により、硬膜外(こうまくがい)、硬膜下(こうまくか)、クモ膜下、脳内に分けられ、頭部CT・MRIで鑑別します。小児の硬膜外・下出血の多くは虐待を含む頭部外傷に伴い生じます。日本でも近年、児童虐待は重大な社会問題となってきており、脳発達障害の出生後の病気としてもその比率を増しつつあります。クモ膜下・脳内出血は、以前はビタミンK2欠乏によって生じましたが、日本では出生直後のK2シロップ投与によりほぼ完全に予防されました(図18)。現在は、もやもや病などの脳血管奇形に伴い生じることが多いです。もやもや病は日本を含むアジア諸国で多く発生する脳血管の奇形で、大脳を栄養する主要な動脈が先天的に狭くなり、代わりに画像検査で「もやもや」に見える細い動脈が血液の流れの悪い場所を栄養しています。小児期では血流の不足から脳梗塞が生じ、青年期ではもやもや血管から出血が起こります。

図18. ビタミンK2欠乏性脳出血の頭部CT

図18. ビタミンK2欠乏性脳出血の頭部CT

出血と浮腫(星印)

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