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脳発達障害

2.脳発達障害での知能障害

脳発達障害での知能の障害(発達障害)

大脳皮質には20歳で約140億個といわれる膨大な数の神経細胞が存在します。大脳皮質の神経細胞は、全身からくる感覚情報を処理し、意志に基づいた行動を計画し、実行のため指令を出します。大脳皮質が障害されると、運動や感覚の障害がないにもかかわらず、認知、記憶などの高次脳機能が障害されます。大脳は部位により前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉に分けられますが、大脳の限られた領域である領野(りょうや)が高次脳機能と関連していると推定されています。例えば、前頭葉の中心前回(ちゅうしんぜんかい)は運動の指令を出す運動野(うんどうや)、後頭葉後端は視覚情報が集まる視覚野(しかくや)、側頭葉上部が音・言語の情報に関連した聴覚野(ちょうかくや)、等です。実際は大脳皮質の複数の領域が高次脳機能に関係しており、特定の機能を担っていた皮質が障害されると近接する皮質がその機能を代行します。

左右の大脳で高次機能との関わりの程度が異なっていることが知られており、右利きの人の90~95%で言語中枢は左大脳に存在するため、左大脳は優位半球と呼ばれます。一方、左利きの人のそれぞれ70%で左大脳が優位半球、15%で右大脳が優位半球で、残りの15%で優位半球を同定できない、とされます。

各領野の情報は連合野(れんごうや)に送られ総合的に処理されますが、中でも前頭連合野が重要で、「行動や決断を導くのに必要な情報を一時的に保持しつつ操作するワーキングメモリー(作業記憶)」の形成に関与しています。前頭連合野が障害されると意欲、思考、判断などの障害が生じるため、後述の広汎性発達障害やADHDなどとの関連が論議されています。近年、機能画像検査や神経生理検査により高次脳機能に関連する脳の領域が次々に明らかとなってきています。

知能は物事を理解し判断する能力で、環境に適応するとともに、問題解決をめざして思考を行う力です。脳発達障害の知能の障害の多くが、前述の大脳皮質の病変と関連していると推定されます。それらは、発達期に生じる認知・コミュニケーションの障害として、米国精神医学会が出版しているDiagnostic and statistical manual of mental disorders, DSM-IV(診断と統計のための精神障害の手引き)第4版1994の「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」欄を用いて、症状の組み合わせから操作的に診断されます。精神遅滞(本稿では「知的障害」を用います)学習障害広汎性(こうはんせい)発達障害注意欠陥・多動性障害(ADHD)などが含まれます。


知的障害(精神遅滞)、学習障害

知的障害は、DSM-IVでは「18歳未満に発症し、知能指数IQ 70以下で、意志伝達や家庭生活において適応障害がみられる」と定義されます。IQにより、軽度:IQ 50~70、中等度:IQ35~50、重度:IQ 20~35、最重度:IQ 20未満、等重症度が設定されている。知的障害の評価には、新版K式発達検査(0~14歳)やWechsler知能検査(WPPSI:3~7歳、WISC-III:6~16歳)が用いられ、ともに動作性(視覚認知が主)と言語性の2つの領域から評価されます。

一方、学習障害の定義については現在でも異論が多く存在しますが、医学的には、視力・聴力・運動能力は正常にもかかわらず、言語・文字・計算の習得、身体の空間認知に問題があり、学業成績が上がらない状態を意味します。発達性言語障害、発達性読字・書字困難症、算数障害などが含まれます。発達性言語障害は、一般に男児に多く言語理解は可能ですが言語表出が遅れる発達性表出言語障害と、言語理解が困難で言語表出も遅れる発達性受容性言語障害に分けられ前者が多くみられます。


広汎性(こうはんせい)発達障害

広汎性発達障害には、自閉性障害レット障害(症候群)アスペルガー障害(症候群)などが含まれます。自閉性障害は、「3歳以前に発症し、対人的な相互作用(視線を合わす)や意志伝達(言語や物まね)に遅れや異常がみられ、反復的・常同(じょうどう)的・儀式的な行動がみられる状態」と定義されます。広汎性発達障害の特徴は、対人関係や社会性の質的異常、コミュニケーション行動の質的異常、イマジネーション(想像性)の障害、関心の範囲の障害(興味のこだわり、反復的・常同的行動)です。それらの特徴が顕著な場合を「自閉症」と通称し、それ程強くない/一部が目立たない場合を「非定型自閉症・自閉傾向」と呼ぶことが多いと考えられます。一方、精神や言語の発達に遅れがなく、対人関係以外ではある程度の適応能力を示す場合、「高機能広汎性発達障害」、「高機能自閉症/非定型自閉症」、「アスペルガー症候群」などの用語が使われます。

(1)歴史的変遷

1943年、児童精神科医カナーは、著明な行動異常を示す子供を見出し「早期幼児自閉症」と命名しました。当初、「子供との情緒的接触に欠ける両親が多い」など心理的側面が強調され、家族に二重の苦しみを与えました。1960年代後半、ラターらは「自閉症の本質は認知や言語の障害であり、社会性の障害や行動異常などが二次的に生じる」と提唱しました。さらに、「自閉症児の両親には性格的特徴はみられない」、「周産期異常の既往がみられる」、「器質的脳障害児が自閉症と類似の障害を示す」、「高率に脳波異常やてんかんを合併する」等から、自閉症発症には心因性背景よりも脳の器質的・機能的病変の関与が大きいと考えられるようになりました。男児に多いといわれていましたが(男女比は3~5:1)、最近、女児も増えています。

(2) 主要症状

対人関係障害(自閉的孤立)
イマジネーションの障害から、他者への関心や感情移入が乏しく、乳児の頃から独りでおかれても平気、一人遊びが多く、他人に干渉されることを嫌い、視線を合わせない、他者との協調遊びができない、他者の動作をまねできない、等がみられます。年長になると多少改善します。
強迫的同一性保持行動
イマジネーションの障害から日常生活全般において変化を嫌う。毎日決まった日課を繰り返す、同じ場所に物を置くことに固執する、同じ道を通ろうとする、特定の動物をこわがる、特定の臭いや味のものしか食べない、等がみられ、操作の手順を変えられたりするとパニック状態におちいります。
常同(じょうどう)運動と自傷行為
常同行為とは、指をこすり合わせる、眼前で手をひらひらさせる、水をいじる、紙を破る等、単調で変化の少ない行動を習慣的に繰り返します。一方、自傷行為は、自分の頭を手でたたく、壁や机に頭をぶつける、手をかむ等、自分の体を傷つける行為。相手の意図が理解できない時や、自分の要求が満たされない時などに出現します。ともに知的障害の重い例に多くみられ、年長になると多少軽減します。
睡眠障害・脳波異常・てんかん
入眠・覚醒が不規則、夜間中途覚醒・年長児での午睡が多い、特定の就眠儀式が必要などの睡眠障害が乳期からみられます。また、4割前後で発作性の脳波異常がみられ、年長児の3割で全身性強直間代けいれんなどのてんかん発作を認めます。脳波異常が高度の場合、抗けいれん剤の予防投与が行われます。
感覚過敏・鈍麻(どんま)
触覚(皮膚、髪の毛、流水、石鹸、紙)、視覚(縞模様、丸、視野を横切る物)、聴覚(子供・動物の泣き声、車のエンジン音)などの感覚が過敏・鈍感であり、パニック状態や偏食(味覚・嗅覚の異常)の誘因となります。また、複数の情報から必要なものだけを選び出す選択的注意も障害されていることが多いです。感覚過敏・鈍麻は成長するにつれ改善しますが、完全に消失することはありません。療育・訓練での様々な体験は、感覚過敏・鈍麻の改善や選択的注意の獲得に有用です。

(3) 広汎性発達障害のことばの障害とアプローチ

広汎性発達障害では発語・言語理解ともに障害されます。発語ではプロソデイ(発話の内容を強調するためアクセント・高低・リズム・間の取り方を変化させる)に異常がみられます。一方的な会話が多く、話しかけも唐突で、話題が急に転じます。独り言、奇声、反響言語(おうむ返し)、遷延性反響言語(過去に聞いた言葉を関係のない時繰り返す)、隠喩(いんゆ)的言語(高い所へ行きたい時はヘリコプターと言う)等もみられます。知能が高くある程度会話が可能な場合でも、代名詞の理解困難・反転現象(”あなた”が”わたし”)、助詞の省略(電文調)・終助詞の使用困難が認められます。

言語の理解では抽象概念の理解に困難がみられ(イマジネーションの障害から「他者の心」を理解できない)、表現されていないことの推測ができません(表面的理解)。また、省略された部分、裏に秘められた内容、代名詞などを理解することが苦手です。また、「だめ」、「違う」等の否定的表現や大きな声(感覚過敏も関与)に敏感に反応します。

従って、広汎性発達障害児との会話では、ことば(主語・目的語)をできるだけ省かない、代名詞には名詞を加える(具体的な表現)、比喩・冗談・皮肉を避ける、禁止命令以外は否定的表現・大きな声はできるだけ避ける、ビデオ観察等により詳細に行動を分析しキーワード(お父さん、先生など)や隠喩的言語(ブランコ=遊び、折り紙=オシマイなど)を明らかにする、等の注意が必要です。一般に、広汎性発達障害児は、イマジネーションの障害から先のことを予測することが苦手です。一方、言語情報に比し視覚的情報の理解・処理は得意です。そこで、絵カード・写真・予定表・ビデオでの擬似体験(シュミレーション)などの視覚的手がかりを使って、先の予定や運動会などのイベントを常に何度も説明することで、円滑に行動できるようになります。

(4) 一般的なアプローチ

子供のありのままを受け入れ、治療者が行動を誘導しない非指示的遊戯療法は社会的予後の改善に役立たないことが明らかになっています。

条件づけ行動療法
目的に合った社会的に好ましい行為をした時は決まったやり方でほめ、逆に目的からはずれ社会的にも好ましくない行いをすれば決まったやり方で罰します。
感覚運動の統合訓練
感覚的に過敏でなわとびなど動作の組み合わせが苦手なので、触覚刺激(体のマッサージ等)、屈伸やマット運動、マラソン、視覚と上肢の協調運動(ボール投げ等)、リズム運動を行います。
統合保育(健常児との交流保育)
2歳以上の発達水準が必要です。始めは無理せず、家族の同席を求めます。また、複数担任が望ましく、少人数保育から始めます。
ソーシャル・スキルの確立
社会に出て働く時には、身の回りの世話が一人でできる、最低限のエチケットを身につけている、集団でのルールを理解している、等ソーシャル・スキルが問われます。幼少時から、家族と学校でスクラムを組んで、食事・排尿便・衣服着脱・挨拶を身につけさせます。
TEACCHプログラム
(Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped CHildren)
米国北カロライナ大学のショプラーらによって開発された療育プログラムで、物理的構造化(視覚的手がかりにより環境の意味を理解しやすくする)、スケジュールの構造化(理解可能なやり方で学習や生活のスケジュールを予告する)、ワークシステム(生活動作や学習作業を児が自立的に実行できるように「どこで何をどのくらいやり、終了後どうすればよいか」提示する)、タスク・オーガナイゼーション(課題や作業のやり方を具体的に教える)、等で構成されています。

(5) 広汎性発達障害の薬物療法

メチルフェニデート(商品名リタリン)はADHD(後述)で汎用されている向精神薬で多動の治療として用いられます。広汎性発達障害児では脳内ドパミン代謝の異常が推定されるので、レボドパ少量療法ではドパミン前駆物質のレボドパを投与しドパミンに対する脳の過敏性を是正し、行動異常を軽減させ、社会性を増加させます。自閉症児では脳内セロトニン代謝の異常も推定されており、抗うつ剤である選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)が一部の行動異常を緩和します。一方、メラトニンは松果体(しょうかたい)から分泌されるホルモンで、1995年から米国で薬物(時差の矯正)として市販されています。睡眠・覚醒リズムの調整に有用ですが、日本では市販されていません。

(6) アスペルガー症候群(高機能広汎性発達障害)

知的障害を伴わない広汎性発達障害で、言語発達は良好ですが、それ以外の特徴は自閉性障害と同様です。周囲の理解と適切な環境があれば、「少し変わったヒト」と思われるくらいで成長できます。思考に応用能力を欠くので、簡単な言葉でわかりやすく指示を与える必要があります。学童期になって集団行動の困難性で気付かれますが、小学校高学年になると他者の心理が多少理解できるようになり行動異常も軽減します。早期療育の成果により、自閉性障害からアスペルガー症候群に診断がかわることもあります。逆に正しい診断がなされず、青年期以後も未診断・未対応の患者さんもいます。パニック頻発やこだわりなどのため、しつけの悪い児童と誤解されイジメを受ける場合も多いです。イジメを受け続け被害的になり、不快な経験の映像的再現(タイムスリップ)やパニックの頻発を示す患者さんや、青年期になり、不登校、暴力、幻覚様の訴えを示す患者さんも存在しますので、早期の診断が重要です。

(7) レット症候群

自閉傾向に加え種々の神経症状が女児にみられる疾患で、女児1万人~1万5千人に一人の割合で発生します。約半数の患者さんにMECP2遺伝子の異常が見いだされます。乳児期に運動発達の遅れと自閉傾向で発病、幼児期に、両手をもみあわせる常同運動、無呼吸・過呼吸、脳波異常が出現します。さらに、幼児期に、下肢の筋緊張亢進、関節拘縮、側弯、四肢末端の冷感などが加わります。抗けいれん剤やメラトニンによる治療が行われます。


注意欠陥・多動性障害(ADHD)

従来、「多動」として扱われていましたが、DSM-IVで「注意欠陥・多動性障害Attention Deficit Hyperactive Disorder ADHD」にまとめられました。注意を持続させることが困難(意識的に集中できない)、多動性、衝動性(突然乱暴な行動をする)が3主要症状で、知的障害の合併があってもよいとされます。ADHDの発生頻度は、米国で全小学生の2~20%、英国や日本で1%前後といわれますが、現在増加しているようです。男女比は約4:1で女子に比べ男子が多いです。

3歳頃までには発病していると推定されますが、ADHDの診断が下されるのは小学校入学後です。症状がピークの際は、注意困難と多動のため、学校では教師、家庭では両親の指示に従わないことが多く、また、行動は衝動的、情緒が不安定でかんしゃくを起こしやすく、怒りっぽい傾向を示します。半数近い患者さんでは、思春期すぎに多動が改善し、不注意も個性の範囲内に調整され、対人関係も良好となります。残りの半数でも症状は軽減しますが、不注意・軽度の衝動性のため、学業・対人関係での困難や情緒不安定がみられます。一方、不適切な対応がなされた場合、うつ病などの精神異常や犯罪行為などの反社会的問題が生じることも稀にあります。

(1)ADHDの原因

「ADHDの基本的な病態は大脳の前頭葉連合野が司る『行動抑制』・『実行機能』の障害である」との仮説が出されています。「行動抑制」は、順番を待つ、会話を邪魔しない等、長期的な報酬を期待し、目の前の満足を先延ばしにし、行動を抑制することです。一方、「実行機能」は自己を管理して行動するために必要な能力で、作業記憶、内的会話での自己制御、情動・覚醒レベルの調整などが関係します。さらに、ADHDとドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の代謝障害との関連も論議されています。

(2)ADHDへの指導

セルフ・コントロ-ル
生活リズム(睡眠・食事・排泄)を安定させます。次に静止動作の訓練を毎日やります(ゆっくり数を数えさせ動作を止めさせる、静止時間を少しずつふやす)。さらに、一つの課題にどのくらい集中できるか、どんな気分転換が有効かを確認した上で、一つのことに固執させずに様々なことを体験させます。騒いでイライラを解消させるような行動は抑え、自分の感情を制御するよう努力させます。同時に、自分とは異なる判断基準が存在していること、その状況では誰が決定権を持っているのか、等を教えます。弱者へのいたわりなどの優しい性格をのばすようにします。
環境変容法
ADHDの症状は外界からの刺激や環境への過剰反応で引き起こされることが多いので、刺激を受けにくいように環境を整備します。ただし、外界からの刺激が少なすぎても、多動が引き起こされます。教室の机配置は日本風の劇場方式にする(全員が教師を向く)、窓・通路側の席を避ける、バックグラウンド音楽を流す、使用しない教材は片付ける、教室内の基本ルール(私語を慎む、後ろを向かない)を目につく場所に貼る、課題は短時間で区切って出す、等の工夫をします。
行動療法
本人の行動が引き起こした結果を利用し行動を矯正します。良い行動を具体的に教え、成功させるよう指導します(パンツにウンチをもらさなかったら○、等)。良い行動はほめ、ほうび・特典(ト-クン・エコノミ-)を与えます(正の強化)。逆に望ましくない行動には罰を与えるか、好きな事をする権利を一時的に止めます(負の強化)。叱る時には必ず正しい対処法も教えます。衝動に対しては、口頭での注意を行った後、1~5分間のタイム・アウトを宣告します。本人の行動についてあらかじめ約束をさせ、それを守らせます(約束表を使用、箸ではさんで食べる、服はたたんでしまう、等)。

(3)ADHDの薬物治療

世界中で一般的に用いられているのが向精神薬メチルフェニデート(商品名リタリン)です。ADHD小児の70~80%で注意困難、多動、衝動のすべてに有効です。作用機序として、脳内のドパミン、ノルアドレナリンの濃度を上昇させ、年齢に比し低下している前頭連合野の機能を活性化することで、注意・集中を改善させると推定されています。副作用としては、不眠、食欲不振がみられ、時にてんかん発作が起こりやすくなることがあるといわれています。日本では現在、ADHDについての保険適用は認められていませんから、患者さんやご家族への十分な説明の上での同意のもと、医師の責任で処方されます。メチルフェニデ-ト以外にも、セロトニン代謝を改善させる抗うつ薬(前述のSSRI)、てんかん発作や脳波異常に対する抗てんかん薬(カルバマゼピン:商品名テグレト-ルなど)、などが用いられます。

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