認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム








プログラム概要
第1部 『日本・イギリス・フランスの認知症国家戦略』
「日本の認知症施策」 厚生労働省 原勝則 老健局長
昨年6月、厚生労働省は「今後の認知症施策の方向性」を発表した。行動・心理症状(BPSD)という危機が発生してから事後対応する従来型を脱し、早期の診断と対応により危機の発生を未然に防ぐ事前対応へと「ケアの流れを変える」ことを主眼としている。
これに基づき策定した「認知症施策推進5か年計画」(2013年度~)では、標準的なケアパスの作成、初期集中支援チーム創設と早期診断を担う医療機関の充実による早期診断・早期対応、薬物使用に関するガイドライン策定、精神科病院に入院が必要な状態像の明確化、退院支援・地域連携、認知症の人と家族の暮らしを支える地域支援推進員・サポーター・市民後見人の養成、若年性認知症施策の強化、医療介護職における人材育成などを盛り込んでいる。
重篤な要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを支える医療・介護サービスに取り組み、世界のモデルとなることを目指す。
「イングランドにおける認知症国家戦略」 Alistair Burns
イングランドでは2009年2月に認知症国家戦略を発表した。そこに定めた17の目的のうち、プライマリケアにおける早期診断・早期支援、総合病院および介護施設における認知症対応、抗精神病薬の低減、介護者支援を重点項目としている。また、2014年までに認知症の人にとっての10の成果を上げること(例:生活を楽しむことができている、私の病と生活にとって最善の治療と支援を受けることができている)を目指し、認知症のイメージを変える啓発キャンペーン等も行っている。
総合病院では入院患者の認知症を発見して不要な入院を減らし、必要な入院には適切なケアを提供するようインセンティブをつけ、介護施設においては終末期ケアを重視している。死亡などの副作用を最小限に抑えるため、抗精神病薬の使用率も大幅に低下させてきた。さらに認知症の人にやさしい地域づくり、研究強化などを図っている。
「フランスの国家認知症戦略」Benoit Lavallart
研究・健康・連帯を3本軸とし、44の施策を定めて16億ユーロを投じた第3次プラン・アルツハイマー(2008~2012年)は、政権交代を経て2013年以降も継続することになった。目指すのは、認知症に対する恐怖心やスティグマの解消、適時診断のためのアクセス向上、継続性のあるケアの提供、行動障害に対する許容度の引き上げ、医療・ケア職の対応能力およびスキル向上を図ることである。
具体的には、診断のためのメモリーセンター(データ蓄積も実施)、ケアのワンストップ窓口であるMAIA、レスパイトのためのデイケアや一時入所施設、若年性認知症専門センター、介護施設および総合病院におけるBPSD対応ユニットの設置、ケースマネジャーや在宅リハビリ支援チームの配置、ケア専門職のスキルアップ研修などを全国に展開。また抗精神病薬の使用率低下、電話相談窓口の設置、倫理的問題の議論を促す「倫理の広場」開催などを行っている。

 

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第2部 『オーストラリア・デンマーク・オランダの認知症国家戦略』
「オーストラリアの認知症国家戦略」 Russell de Burgh
2012年、政府は認知症を国の優先健康課題9疾患の1つに位置付け、大幅な高齢者ケア改革『Living Longer, Living Better』を発表した。2006年に開始した国家戦略『National Framework for Action on Dementia』の改訂作業も進めており、改訂版は2013年中にも発表予定である。
高齢者や障害者に対する施設ケアから在宅ケアへの移行は1980年代半ばに始まった。認知症の人々が「在宅でケアを受けたい」と明確に希望していることから、政府としても可能な限り自宅で過ごすことを奨励している。そのために、認知症の人にやさしい地域・環境づくりとして、警察・救急・銀行・交通機関など危機対応のための啓発訓練、認知症の障害に対応する建物設計の普及、物理的・化学的拘束を最小限に止めるためのガイドライン作成や指導、認知症行動マネジメント助言サービス、精神保健専門職によるケースマネジメント支援、新しいケアモデルづくりなどを実施している。
「デンマークの認知症国家戦略」 Nis Peter Nissen
デンマーク認知症アクションプランは、超党派の合意により設置された省庁・機関・行政レベル横断的ワーキンググループが策定し、2010年にスタートした。14のリコメンデーションには、診断の質向上、臨床ガイドライン策定、ベストプラクティスの創出、アドバンス・ステートメント推奨、強制治療・ケアに対する情報提供、レスパイトケア、専門職トレーニング、研究への投資、啓発などが含まれる。
政府はプラン実施に2年間で450万ユーロを予算配分し、65%を社会的介護の改善、特にBPSDに対する新しい支援モデル開発に投資された。認知症の人への強制治療に関する法改正のため、2013年には法案提出が予定されている。 今後、さらなる認知症人数の増加に備え、研究投資、診断率向上のための啓発、専門職教育の強化、拘束力のあるガイドライン策定などを推進するための第2アクションプランが必要である。
「オランダの認知症国家戦略」 Julie Meerveld
オランダでは2005年からボトムアップ方式で段階的に認知症政策を進めてきた。最初の『全国認知症プログラム(2005~2008年)』では、各自治体が認知症の人や家族の声を聞き、問題やニーズを抽出して対応する改善計画を作成・実施した。
次に、自治体ごとの改善点を関連付け、金銭的インセンティブをつける『認知症統合ケアプログラム(2008~2011年)』を実施し、さらに『全国認知症ケア基準(2011~2013年)』で共通の根拠となる国の基準やガイドラインを作成した。こうしてアルツハイマーカフェや認知症の人と家族のためのデイケアセンターの開設、診断率向上、ケースマネジメント実施など様々な改善をみてきたが、今後も増加する認知症の人数に対応し、過大な負担感を持つ(持つリスクのある)介護者を助け、在宅率を高めていくためには、アルツハイマー協会としても継続的な関与が重要である。

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第3部 『認知症のケアと医療経済分析』
「認知症の人を地域で支える」 Anne Higgins
英国の地方自治体は世界金融危機以降、国の厳しい予算削減に見舞われながら、高齢人口の増加や住民が求めるサービス水準の向上など、増加するコストへの対応を迫られてきた。また、英国政府が2007年に打ち出した「人々を第1に(Putting People First)」政策に伴い、地方自治体が提供するサービスのあり方を、支援を受ける人々が支援内容を選択する自律支援(self-directed support)へと舵を切ってきた。
支援の必要な人には個人予算を配分し、自分に真に必要なサービスを選択する。トラフォード区では地域住民、認知症の人や家族と協力して新たなサービスを開発し、職員の役割を変え、リエイブルメント(生活機能回復)・遠隔ケア・情報提供などを行うことにより、コストやサービス需要の増大を抑制し、地域生活を支える方策を生み出してきた。
「認知症のコスト」 Paul McCrone
認知症のコスト(疾病費用)では、医療費や介護施設等の住居費のほか、無報酬の家族介護費や、介護によって失われた就労や余暇といった間接コストも重要な要素である。今後さらなる人口の高齢化と認知症人数の増加を見据え、QOLを含めた費用対効果の高いケアのあり方を探り、限りある経済的・人的資源を有効活用しなければならない。
認知症と診断されず介入が遅れると、認知症の人のQOL低下や家族の負担が増し、施設入所も早期化するなど深刻な問題が生じる。イングランドの研究では、早期介入によって在宅ケアコストが低下し、早期介入の導入コストが短期に相殺されることが示唆されている。薬物治療もケアの開始を遅らせる可能性があるが、その費用対効果については不確定要素も多い。さらなる経済評価を行いつつ、社会としては適切なコスト増に備えることが必要であろう。

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認知症国家戦略の国際動向と我が国の制度によるサービスモデルの国際比較研究報告書

 

 第1章 認知症日米戦略カンファレンス
 第2章 オーストラリアDBMAS 視察報告
 第3章 国内モデル地域調査報告(富士宮市・大牟田市・世田谷区玉川地域)

認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム
 認知症国家戦略の国際動向とそれに基づくサービスモデルの国際比較研究
報告書

 


認知症国家戦略に関する国際政策会議 課題別集中討議
 2013 Tokyo Report
認知症国家戦略に関する国際政策会議 個別課題における各国の推進状況

 


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