The Toll-Like Receptor 3-Mediated Antiviral Response is Important for Protection against Poliovirus Infection in Poliovirus Receptor Transgenic mice
(ポリオウイルス受容体トランスジェニックマウスにおいてTLR3を介する抗ウイルス応答は感染防御に重要である)

背景

ポリオウイルスはヒトを宿主として急性灰白髄炎を引き起こすウイルスである。我々はヒトポリオウイルス受容体遺伝子をマウスに導入した遺伝子改変動物モデル(PVR-tgマウス)を作製した。このマウスはポリオウイルスを接種するとヒトの急性灰白髓炎と類似の症状を示すマウスモデルである。マウスのポリオウイルス感受性はI型IFN受容体をノックアウトすると著しく上昇することが明らかになっている (Ida-Hosonuma et al J. Virol. 79: 4460-4469, 2005)。このことは宿主の自然免疫系の発動がポリオウイルスの制御において非常に重要な役割を果たしていることを示している。正常なIFN応答がある場合はマウスの非神経組織でウイルスの増殖は低レベルに押えられているが、十分なIFN応答がないと非神経系組織でもウイルスが増殖し、中枢神経系へ到達しやすくなると考えられた。

近年、自然免疫応答においてウイルス感染を検知するセンサー分子が同定され、RIG-I, MDA5, TLR3, TLR7 などがウイルスのRNAを検知していることが明らかになってきた。しかも、ウイルスの種類によって異なったセンサーが重要な役割を果たしていることが明らかにされている。そこで我々は、PVR-tgマウスとこれらのセンサーもしくはセンサーからのシグナルを伝達するアダプター分子(TRIF, MyD88)のノックアウトマウスを交配した。これらの遺伝子を欠損したPVR-tgマウスにポリオウイルスを主に静脈に接種しI型IFNの誘導効率、IFN-stimulated genesの誘導効率、ウイルスの増殖、マウス個体の生死の変化などを解析した。

研究結果の概要

RIG-Iを欠損するPVR-tgマウス由来の初代培養細胞ではポリオウイルス感染によってIFNを誘導することができなかった。したがってRIG-Iはポリオウイルスの検知に関与していないと結論された。MDA5を欠損するPVR-tgマウス由来の初代培養細胞ではIFN誘導が認められた。しかし、このマウスにポリオウイルスを感染させた場合、血中の IFNに誘導、ISGの誘導、非神経組織でのウイルス増殖は野生型と比較し顕著な差は認められなかった(図1)。個体の生存は条件によっては僅かな差が見られたが有意であるとは結論できなかった。

図1:RIG-I, MDA5欠損によるPVR-tgマウスでのウイルス増殖とマウスの生死
図1:RIG-I, MDA5欠損によるPVR-tgマウスでのウイルス増殖とマウスの生死

(A) RIG-I, MDA5欠損PVR-tgマウスに107PFUのポリオウイルスを静脈内接種し、マヒが観察された時点で肝臓、脾臓を摘出しウイルス量を測定した。Ifnar1 KOではウイルス量が増加しているが、RIG-I, MD5 KOでは増加は見られない。
(B) RIG-I, MDA5欠損PVR-tgマウスに104PFU、もしくは105PFUのポリオウイルスを静脈内接種し、2週間生死を観察した。RIG-I, MD5の欠損によって極端な生存の違いは見られない。

MyD88の欠損により、血中IFN、ISGの誘導、非神経組織におけるウイルス増殖にはあまり差が認められなかったが、個体の生存は僅かに低下した。TRIFもしくはTLR3を欠損したマウスでは血中IFNが低下し、非神経組織におけるウイルス増殖が飛躍的に増大し、マウスはより少量のウイルス接種によりマヒを発症し死亡した(図2)。これらの事からポリオウイルスの感染防御にはTLR3を介したI型IFN応答が重要な役割を果たしていることが明らかになった。

図2:TLR欠損によるPVR-tgマウスでのウイルス増殖とマウスの生死
図2:TLR欠損によるPVR-tgマウスでのウイルス増殖とマウスの生死

(A) TLRもしくはそのアダプターを欠損するPVR-tgマウスに107PFUのポリオウイルスを静脈内接種し、マヒが観察された時点で肝臓、脾臓を摘出しウイルス量を測定した。TRIF, TLR3 KOではウイルス量が増加している。MyD88欠損による効果は大きくないが、TRIF, MyD88 DKOではIfnarl KOと同等にウイルスが増殖している。
(B) TLR3欠損PVR-tgマウスに103PFU、もしくは104PFUのポリオウイルスを静脈内接種し、2週間生死を観察した。TLR3の欠損によって死亡率が顕著に増大している。

研究結果の意義

今回の研究結果によってポリオウイルス感染を検知し、個体の防御に重要な役割を果たしているのはTLR3であることが明らかになった。同じピコルナウイルス属の仲間であるEncephalomyocarditis virus (EMCV) はマウスを用いたピコルナウイルスの感染実験によく用いられているが、このウイルスの防御にはMDA5が重要な役割を果たすとされている。従って近縁のウイルスであっても、個々のウイルスの複製様式、感染部位などを反映して異なったウイルスセンサーが機能している。

ポリオウイルスに自然感染した場合、多くの場合は不顕性感染か感冒用症状で終わることが多く、マヒ発症に至るのは1%未満であるとされている。重症化するメカニズムは現在まで明らかにされていないが、宿主が持つTLR3を介する自然免疫経路の多型などが影響している可能性も考えられる。

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