背景

エンテロウイルス71(EV71)の受容体として我々はScavenger Receptor B2(SCARB2)を同定したが、他の受容体の候補としてPSGL1, Annexin II, Sialylated glycanなどが報告されている。これらの分子がEV71の感染においてどのような役割を果たすのかその分子メカニズムは詳細に明らかにされていない。

そこで、その中でもEV71非感受性であるマウス細胞に単独で発現するだけで感受性を与えることができると報告されているSCARB2とPSGL1の、ウイルス感染効率、ウイルス結合、細胞内侵入、脱殻の過程について比較解析を行った。

研究の概要

EV71非感受性であるマウスL929細胞にヒトSCARB2もしくはヒトPSGL1を安定発現したL-SCARB2細胞とL-PSGL1細胞を作製した。L-SCARB2細胞, L-PSGL1細胞にEV71を感染させ、経時的にウイルス力価を測定したところ、L-SCARB2の感染効率はL-PSGL1より高いことが明らかになった。次に放射性標識したEV71ウイルス粒子をSCARB2あるいはPSGL1分子で共沈降させるとSCARB2よりもPSGL1が数倍のウイルスを結合することが示された。L-SCARB2細胞とL-PSGL1細胞におけるEV71の細胞侵入を共焦点レーザー顕微鏡により解析したところ、細胞内にウイルス粒子が検出され、その一部は初期エンドソームのマーカーであるEEA1と共局在しており、EEA1と共局在するウイルスのドット数はL-SCRB2細胞の方がL-PSGL1よりも多く観察された。更に放射性標識したEV71ウイルス粒子を用いてSCARB2とPSGL1によるウイルス粒子の脱殻反応を解析したところSCARB2と混合し、pHが6.0以下で反応させた場合にのみ粒子構造変化が観察された(図1赤矢印)。

図1 EV71の構造変化にはSCARB2と酸性条件が必要である。
図1 EV71の構造変化にはSCARB2と酸性条件が必要である。

放射性標識したEV71ウイルス粒子とSCARB2分子もしくはPSGL1分子を混合し、異なるpH条件下で粒子構造変化をショ糖密度勾配遠心法で解析した。

これらの結果から、SCARB2はウイルスの細胞表面への結合、細胞内への侵入、特にエンドソームへの輸送に関与していると結論された。さらにエンドソームでのpH低下が起こるとウイルス粒子に変化を引き起こし、脱殻反応の引き金となることが明らかになった。一方、PSGL1はPSGL1結合株をSCARB2よりも高い親和性で結合する能力があり、細胞内へも侵入させることができるが、どのような条件においてもウイルス粒子の脱殻反応産物は検出できる限界以下であることが判明した。

研究結果の意義

以上、ヒトSCARB2はEV71への結合、細胞内侵入、酸性条件下でのウイルス粒子の脱殻というEV71感染成立に必要な反応を担う分子であることが明らかとなった(図2)。この知見によりヒトSCARB2はEV71感染成立に必要不可欠であり、ヒトSCARB2の機能およびそれに関わる反応の詳細な解析は感染初期過程の解明に繋がると考えられる。また、EV71-SCARB2相互作用の解析は抗EV71薬開発の標的と成り得ると考えられる。

図2 EV71感染成立におけるSCARB2の機能。
図2 EV71感染成立におけるSCARB2の機能。

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