未来を話そう!
プロジェクト研究の紹介

花粉症プロジェクト

花粉症のバイオマーカーや治療法を、粘膜免疫の立場から研究しています

国民病ともいわれる花粉症。2016年の東京都の調査では、都民の約2人に1人がスギ花粉症を患っていることがわかりました。

私たちのプロジェクトでは、粘膜免疫学のコンセプトを用い花粉症が起こるメカニズムを解明し、現在行われている舌下免疫療法の改善や、新しい治療法の開発を進めています。

花粉症プロジェクト

廣井 隆親 プロジェクトリーダーが解説します。

Takachika HIROI

Project Leader

hiroi

花粉症プロジェクト

廣井 隆親 プロジェクトリーダーが解説します。

Takachika HIROI

Project Leader

どんなことに役立つの?

花粉症の症状を抑える根本療法として、皮下免疫療法に加え、2014年から「舌下免疫療法」が保険適用になりました。

この治療法により花粉症の症状が軽減する人がでてきましたが、治療期間が2~3年と長いにもかかわらず、効かない人が3~4割います。

そこで、舌下免疫療法が効かない人を事前に推測する方法を研究しています。さらに、より多くの花粉症患者の症状や治療状態の把握ができるようにすることも研究しています。

免疫療法とは

なぜ発症するのかわかっていない花粉症

 

—— 舌下免疫療法は、どういった治療法なのですか?

廣井花粉症はご存じのとおり、スギやヒノキの花粉が体の中に入ることで起こるアレルギー疾患です。花粉症であるアレルギー性鼻炎や気管支喘息(ぜんそく)には、抗原(アレルゲン)を少しずつ体に入れて、体を抗原に慣らし症状を和らげていく免疫療法(減感作療法)があります。花粉症ではこれまで定期的に注射をする皮下免疫療法がありましたが、2年以上通院して注射を打つ必要があることから、なかなか普及に至りませんでした。

一方、「舌下免疫療法」は通院回数が少なくて済むうえ、舌の裏側に薬を垂らすという簡単な方法ではありますが、この治療法はまだ広まっていません。つらい症状を抑える抗アレルギー薬による対症療法は、翌年も症状が出ると通院する必要がありますが、舌下免疫療法は花粉症の症状を軽減することが期待できます。

—— 花粉症の症状を軽減することができるのですか?

廣井はい。しかし、舌下免疫療法で症状が軽減する人がいる一方で、3~4割くらいは効果がありません。それというのも、花粉症になるメカニズムがまだ解明されていないからです。まったく同じ遺伝子を持つ一卵性双生児でも、一人がなってももう一人はならないということがあります。ですから遺伝よりも後天的要素が大きいと考えられています。食生活や毎日の歯磨き、腸内細菌、睡眠、ストレス、そして排気ガスなどの環境因子があげられます。私たちは免疫療法の作用メカニズムを解明し、一人ひとりに適した治療法を提案したいと思っています。

hiroi
花粉症
舌下免疫療法を受けた人のうち、3~4割は症状が軽減しない。その原因は、排気ガスや睡眠不足などの環境因子による体の影響によるものが大きいと考えられる。
新たな試み

粘膜免疫学の立場からバイオマーカーを探索

 

—— 新しい治療法や薬は、どのように開発されるのでしょうか?

廣井花粉症プロジェクトでは、粘膜免疫からのアプローチを行っています。経粘膜といって、舌下をはじめ口から食べるほか、目薬、座薬など体内の粘膜を通して抗原を体の中に吸収するさまざまな方法があります。

口から食べて消化吸収する方法の一つとして、農林水産省と一緒に抗原が発現する遺伝子組換え米を作りました。これは現在、臨床試験を行っている段階です。

花粉症
「遺伝子組換え米」は、花粉症を引き起こす原因タンパク質を遺伝子組換えにより米の中に作り、この遺伝子組換え米を毎日食べることで花粉症を治療しようというもの。

—— ご飯を食べる=薬を飲むということですね。ほかにどんな方法があるのですか?

廣井舌下免疫療法では治療効果が上がらない人がいますので、免疫学的にいう個人(体質)を見極める必要があります。そこで、その人の体の免疫学的状態を客観的にとらえるバイオマーカー(指標)を探してます。実はすでに目をつけている分子が5、6個あり、それは組み合わせによって舌下免疫療法の効果が判別できるので、さまざまなパターンを解析しているところです。

未来への展望

オーダーメイド医療の確立と、
患者さんのQOL向上を目指して

 

—— バイオマーカーが見つかると、どんないいことがあるのですか?

廣井舌下免疫療法のバイオマーカーが見つかると、この治療法で効果のあらわれない人が治療前に特定できるようになります。現在は、3年かけて治療を続けた結果、「効きませんでした」という患者さんもいるわけですから、患者さんの負担を避けることができます。さらに、舌下免疫療法が効かない人のために、健常者や治療が効いた人の口腔フローラから関連する細菌を見つけ出し、その成分から新たな薬を開発できればと考えています。

—— 花粉症に苦しむ人でも、治る希望を持てますか?

廣井最終的には、バイオマーカーの探索や新薬の開発により、都民の半分程度いる花粉症の患者さんのQOL(生活の質)が向上するとうれしいですね。同時に、医療費も大幅に削減できるでしょう。

また、花粉症以外のアレルギー疾患、自己免疫疾患の病態解析などの研究も進めています。時間はかかるかもしれませんが、臨床で応用できる新薬や治療法を開発できたらと考えています。


タイトル

花粉症にかかっていない人も安心は禁物。
花粉が飛ぶ時期には予防が大切です

現在、花粉症にかかっていない人も、ある時から突然花粉症にかかってしまうことは珍しくありません。都の調査によると、スギ花粉症患者数は年々増加していますから、安心はできません。

花粉症患者は、患者でない人に比べ日常生活で花粉に触れる機会が多いことがわかっています。また、花粉が多い年は花粉症の症状が出て受診する人が多く、花粉が少ない年は受診する人も減るというデータもあります。つまり、抗原(花粉)の暴露を避ければ花粉症の発症から遠ざかることができ、花粉症患者もひどい症状から逃れることができるのです。

まだ花粉症になっていない健康な人も、花粉が飛ぶ時期には「花粉が多い場所には行かない」 「外出の際はマスクをつける」などして、抗原を体の中にためないように心がけましょう。