未来を話そう!
プロジェクト研究の紹介
分子医療プロジェクト
遺伝子やタンパク質を研究の対象に定めて、がんや感染症の診断薬を開発しています
私たちのプロジェクトが研究の対象としているのは、遺伝子やタンパク質。
これらは「分子」なので、「分子医療」がプロジェクト名になっています。
分子についてさまざまな研究をする中で、特にがんや感染症の診断薬の開発に力を入れています。さらに病院や産業界と協力するなど、より実用化に重点を置いた取り組みを行っています。
分子医療プロジェクト
芝崎 太 プロジェクトリーダーが解説します。
Futoshi SHIBASAKI
Project Leader
分子医療プロジェクト
芝崎 太 プロジェクトリーダーが解説します。
Futoshi SHIBASAKI
Project Leader
どんなことに役立つの?
基礎研究はとても大切なことですが、直接患者さんに役立つ創薬や診断薬の実用化も必要です。
特に効率よく速やかにがんや感染症の診断薬を開発できれば、病気を「早診完治」でき、患者さんの負担を和らげることができます。と同時に、社会保障費の削減にもつながるでしょう。
プロジェクトの背景
平均寿命より健康寿命を延ばすことが大事!
—— 「分子」という幅広い研究テーマの中で、なぜ、がんや感染症などの診断薬の開発に力を入れているのですか?
芝崎現在、わが国の医療費は年間約40兆円を超え、国家予算の実に40%以上に上っています。今後は高齢化が進み、医療費はさらに増大する恐れがあります。
こうした社会背景からも、平均寿命を延ばすこと以上に、健康に過ごすことのできる状態、すなわち健康寿命を延ばすことが大事だと考えています。現在、10歳ほど開きがある健康寿命と平均寿命の差がもっと縮まれば、社会保障費の負担を減らすことにもつながるでしょう。そのためには、高齢者に多いがんの予防、早期診断による完治が必要なのです。
もう一方で、世界中で薬剤の効かない感染症が流行しています。WHO(世界保健機関)は、2050年までにアジア・アフリカで感染症が原因で亡くなる人が1,000万人に達するだろうと勧告しています。今はグローバル社会ですから、容易に海外から感染症が入ってきます。そのため、他国で広がる感染症を減らすことが私たちにとっても大切なことだと考えています。
資料:平均寿命(2010年)は厚生労働省「平成22年完全生命表」、健康寿命(2010年)は厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」より
創薬に向けて
産学医連携でインフルエンザの診断薬が実用化!
—— 研究室が病院や企業と連携するというのは、どういう仕組みですか?
芝崎日本ではノーベル賞への注目度から、基礎研究による「発見」の部分が評価されますが、診断・創薬など実用化の面では、その多くを臨床研究や企業の開発が担っています。
そこで、当研究所が主体となって、2011年、大学、病院、企業が緊密に連携することを目的とした、「東京バイオマーカー・イノベーション技術研究組合」、こちらは、英語名でTokyo Biomarker Innovation Research Association(TOBIRA)であるため、略称として「とびら」と呼んでいますが、このような橋渡し組織を作りました。基礎研究を担う研究側は、我々とともに東京都健康長寿医療センターと首都大学東京の東京都の関連団体や、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構、東京農工大学などの5機関、企業はベンチャー系など8社が参加しています。これまでは、各研究所やプロジェクトが個別に企業とやりとりをしていましたが、「とびら」ができたことで実用化への効率が上がりました。
さらに、多摩総合医療センター、小児総合医療センター、墨東病院や駒込病院といった都立病院など、東京都のレベルの高い13病院と臨床の面で協力できるのは大きな強みです。病床数の合計は7,000程度で、非常に大きな医療資源が薬の実用化に向けてバックアップしているのです。
—— 「とびら」を活用し、本プロジェクトで実用化した薬、キットを教えてください。
芝崎すでに病院などで使われているインフルエンザの診断薬 (*1)は、鼻咽頭ぬぐい液を取ることで季節性のインフルエンザA型およびB型ウイルスを発症3時間以内に検出できます。
来年にはさらに2品目が実用段階を迎えます。
一つは子宮頸がんのワクチン接種後にワクチンが効いているかどうかを見極める診断キット(*2)。血液1滴以下で15分以内にわかるという、患者さんにとって負担の少ないものです。
もう一つは、遺伝病であるファブリー病の治療薬に対する副作用判定キットです。ファブリー病は糖脂質を分解する酵素の異常が原因で手足に激しい痛みや尿の異常などがあらわれる病気です。このキットによって治療薬の副作用を調べられ、早期に治療法の対策が立てられるようになります。
*1 診断薬は、厚生労働省(PMDA)から正式に認可されたもの
*2 診断キットは、実用段階で主として研究用に使用されるもので、診断薬の手前に位置するもの
未来への展望
すぐにがんを診断できる遺伝子キットを開発したい
—— 今後はどのような診断薬を開発する予定ですか?
芝崎簡便な遺伝子診断キットを開発したいと思っています。今はまだ専門機関での受診が必要で、がんなら判定に1週間以上かかるので、誰でもすぐに使えるようなものにしたいですね。
また、感染症ではアジアやアフリカでも気軽に使えるよう、小さく軽く、そして100円単位で購入できるようなものを開発したいですね。
画期的新薬が
国を滅ぼす?
肺がんなど、さまざまながんの治療薬として期待されている免疫治療薬「オプジーボ」。
しかし、価格がとにかく高いことが問題になってきました。この薬を患者1人が1年間使うと3500万円もの費用がかかり、仮に国内で5万人が使うとすると、年間1兆7500億円にも上るというのです。
患者さんはというと、健康保険加入者には高額療養費制度があるため、どんなに高い薬をたくさん使っても月8万円程度で済みますから、あとの負担は国庫で……ということになります。画期的な新薬が国を滅ぼすというのは、そういう意味なのです。
なお、この 「オプジーボ」 は、医療制度への負担が大きすぎるということで、2017年2月1日、緊急措置的に薬価が半額に引き下げられました。そして、2018年4月の薬価改定において、さらに約24%引き下げられました。