HOME広報活動刊行物 > October 2014 No.015

研究紹介

パーキンソン病モデルにおけるアディポネクチンの治療効果について

米国科学誌「Annals of Clinical and Translational Neurology」にパーキンソン病プロジェクトの橋本款副参事研究員、関山一成研究員らの研究成果が発表されました。

パーキンソン病プロジェクト 研究員関山 一成

パーキンソン病は臨床的に、安静時振戦(ふるえ)、筋強剛※1、寡動(動きが鈍くなる)および姿勢反射障害※2などパーキンソニズムとよばれる運動機能障害が表れます。病理学的には、中脳黒質(中脳の一部を占める神経核)のドパミン神経におけるα-シヌクレイン(αS)の蓄積・凝集、それに伴うドパミン神経の変性・脱落や、レビー小体とよばれる細胞内封入体(異常物質の集合体)の形成を特徴とする神経変性疾患です。パーキンソン病は、その大部分が高齢者に発症し、高齢化が進む現代社会において患者数は増加し、その莫大な医療費や介護に伴う支出は大きな問題となっています。しかし、現状では有効な予防法や根治療法は無く、その開発は医学研究の急務の一つと言っても決して過言ではありません。

近年、多くの研究により、2型糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病が神経変性疾患に対して危険因子となることが分かってきました。また、蛋白分解系やミトコンドリアの異常などの様々な病態が、2型糖尿病と神経変性疾患との間で類似することも明らかになってきました。これらのことから、私達は、パーキンソン病などの神経変性疾患と2型糖尿病や動脈硬化との間に共通の治療ターゲットが存在するのではないかと考え、抗糖尿病・抗動脈硬化因子として知られているアディポネクチン(APN)に着目しました。

パーキンソン病および、その近縁疾患(シヌクレイノパチー)であるレビー小体型認知症(DLB)の患者様の死後脳をアディポネクチンに対する抗体を用いて免疫染色した結果、レビー小体の位置にアディポネクチンの染色像が重なることから(図1)、アディポネクチンがシヌクレイノパチーの病態に関与している可能性が示唆されました。

図1

そこで、シヌクレイノパチーに対するアディポネクチンの効果をシヌクレイノパチーモデルで確かめました。α‐シヌクレインを発現させた培養細胞(B103神経芽細胞)において、アディポネクチンは代謝制御において重要な役割を担っているAMPキナーゼを活性化させることで、α-シヌクレインの凝集を抑制しました。また、様々な神経毒性に対しアディポネクチンが神経保護的に作用することがわかりました。さらに、α-シヌクレインを発現したトランスジェニックマウス(αSTg)に対して、アディポネクチンを長期間鼻粘膜投与することにより、α-シヌクレインを発現したマウスの神経病理や運動機能試験の成績が有意に改善する事を観察しました(図2)。

図2

本研究により、マウスモデルに対するアディポネクチンの投与によって、α-シヌクレインの凝集や運動機能障害が抑制されるなど、アディポネクチンがシヌクレイノパチー病態を改善することが示されました。今後、アディポネクチンの抗神経変性作用の詳細なメカニズムを解明し、近い将来、パーキンソン病やレビー小体型認知症などの予防、あるいは根治療法の開発に繋がることが期待されます。


※1 筋強剛:
筋肉が強張ってスムーズな動きができなくなる
※2 姿勢反射障害:
姿勢を変えたり、元の姿勢に戻ることが困難になる

参考文献

Sekiyama K, Waragai M, Akatsu H, Sugama S, Takenouchi T, Takamatsu Y, Fujita M, Sekigawa A, Rockenstein E, Inoue S, La Spada AR, Masliah E, Hashimoto M.
Disease-Modifying Effect of Adiponectin in Model of α-Synucleinopathies.
Ann Clin Transl Neurol. 2014 Jul 3;1(7):479-489.
doi:10.1002/acn3.77

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