HOME広報活動刊行物 > October 2014 No.015

開催報告

平成26年度 第3回都民講座
聞こえと遺伝子 ~難聴のメカニズムと先端医療~

東京医学総合研究所は都民の皆様向けに年8回ほど講演(都民講座)を行い、当研究所の研究成果の一端や関連する最新情報などを分かりやすくお伝えしています。

講師:東京医科歯科大学 名誉教授 喜多村 健

前日までの台風がウソのように晴れ渡った7月11日、第3回都民講座を開催いたしました。今回は「聞こえと遺伝子~難聴のメカニズムと先端医療~」と題し、長年に渡り、難聴治療と難聴研究に携わってこられた東京都医科歯科大学名誉教授の喜多村健先生にお話し頂きました。講演では、耳の構造、生理、病気などの基礎的なお話から、難聴治療の現状、難聴の発症に関係する遺伝子、さらには今後の難聴に対する再生医療の可能性など多岐に渡りましたが、非常にわかりやすく、面白い話を数多く聞くことができました。また、今回は難聴をテーマにした講演であったこともあり、都民講座では初めて要約筆記による通訳サポートを行いました。

特に印象に残ったのは、現在、難聴の治療法として効果を上げている人工臓器のお話でした。図に示しているのは私たちの聴覚器である「耳」の構造になりますが、私たちの耳は主に耳介と外耳道からなる「外耳」、鼓膜と耳小骨からなる「中耳」、半規管、前庭、そして蝸牛からなる「内耳」に分けられています。このうち、音を伝える役割を担っているのが外耳と中耳で、脳に音を伝えるために音刺激を電気信号に変える役割を担っているのが内耳でありますが、外耳・中耳の障害によって音の聞こえが悪くなるのを「伝音難聴」、内耳の障害による難聴を「感音難聴」として分類されています。これまで伝音難聴の患者さんの治療にはこれまで補聴器での対応が一般的でしたが、先生から人工中耳である「埋め込み型骨導補聴器」のお話がありました。先生が埋め込み術を行った患者さんの術後調査からも劇的な治療効果を得られており、さらに最近保険収載されたこともあり多くの患者さんが適応になることが推測されているとのことです。一方、感音難聴の治療に用いられている人工臓器は「人工内耳」であります。人工内耳は機器開発が進み、世界的には17万人以上、日本人でも6万人以上の埋め込み術が施行され、全く音が聞こえない世界からの開放につながる効果が得られているとのお話がありました。今後、さらなる機器開発が進み、講演の後半に話題となった遺伝子診断と組み合わせることにより、多くの難聴患者さんの治療とコミュニケーション障害の改善が期待されます。

講演後は、多くの質問が寄せられ、非常に有意義な講演会となりました。特に、難聴患者さんから自らの体験に基づく具体的な質問・コメントもあり、私たちも遺伝子研究から難聴の治療に役立つ研究を行っていきたいとより深く感じました。

写真

図:耳(聴覚器)の構造

ゲノム医科学研究分野 吉川 欣亮

 
ページの先頭へ