HOME広報活動刊行物 > Oct. 2015 No.019

研究紹介

遺伝性パーキンソン病の発症を抑える仕組みの一端を解明
~パーキンソン病の発症原因の解明につながる発見~

米国科学誌「Journal of Cell Biology」にユビキチンプロジェクトの松田憲之副参事研究員らの研究成果が発表されました。

ユビキチンプロジェクトリーダー松田 憲之

筆者らは徳島大学の小迫英尊教授との共同研究によって、遺伝性パーキンソン病の発症を抑えるタンパク質 Parkin がATPを合成できない品質の悪い異常なミトコンドリアに移行するメカニズムを研究し、リン酸化されたユビキチンの鎖(リン酸化ユビキチン鎖)と結合することで Parkin が異常ミトコンドリアへ移行することを明らかにしました。本発見は、遺伝性パーキンソン病が何故発症するのかという原因の解明につながる成果です。


1.研究の背景

パーキンソン病は、神経伝達物質であるドーパミンを産生する神経細胞が失われることにより、安静時のふるえや歩行障害· 姿勢保持障害· 動作緩慢などの運動障害が起こる病気です。病状が進行すると自律神経障害、記憶力低下などの認知機能障害、幻視やうつなどの精神症状が表れることもあり、自立した生活が困難になる危険性があります。パーキンソン病は日本国内だけでも15万人を超える患者がいる難治性の神経変性疾患であり、また高齢者ほど患者数が多く、65歳を超えると1%以上の人が罹患するといわれています。高齢化が進むにつれて患者数は増え続けており、病気が発症する仕組みの解明が社会的に強く求められています。


2.研究成果の概要

筆者らは、パーキンソン病の発症を抑制する因子PINK1とParkinに着目して研究を続けています。2008年にアメリカの研究グループが「異常なミトコンドリアに Parkin が移行して異常ミトコンドリアの分解に導く」ことを報告し、2010年に筆者らを含む複数の研究グループが「異常なミトコンドリアに Parkin が移行するためには PINK1が必須である」ことを報告しました。その後も筆者らは研究を継続し、1) PINK1とParkinが協調して異常ミトコンドリアをユビキチン化して処分していること、2) その経路が破綻して異常なミトコンドリアが増加すると遺伝性パーキンソン病の発症につながること、を明らかにしてきました。一方で Parkin と PINK1 は安定的に結合するわけではなく、Parkin が PINK1 依存的に異常ミトコンドリアに移行する仕組みは積年の謎でした。

本研究では Parkin が細胞内で異常なミトコンドリアに移動する理由を、「リン酸化ユビキチン鎖」という分子によって解明しました。筆者らは PINK1 がユビキチンにリン酸を付加することを昨年(2014年)に発見していましたが、今回、異常なミトコンドリア上でユビキチンが鎖状に連結され、このユビキチン鎖がPINK1によってリン酸化されたものがParkin と直接結合し、その結果 Parkin が異常なミトコンドリアに移行することを示しました。遺伝性パーキンソン病ではPINK1はユビキチン(鎖)をリン酸化できずにParkinを連れてくることができません。その結果、異常なミトコンドリアが除去されずに細胞内に蓄積してパーキンソン病が発症すると考えられます(図参照)。つまりPINK1とParkinとリン酸化ユビキチン鎖が遺伝性パーキンソン病の発症を抑えていることがわかりました。

図:本研究で明らかにした Parkin が異常ミトコンドリアへ移行する仕組み

図:本研究で明らかにした Parkin が異常ミトコンドリアへ移行する仕組み

上記のシステムが上手く働かないと、本来は除去されるべき細胞内の異常なミトコンドリアが取り除かれません。→脳内に品質の悪いミトコンドリアが蓄積して、パーキンソン病が発症すると考えられます。


3.発見の意義

本研究はパーキンソン病の発症する原因を分子レベルで明らかにしたものですが、例えばリン酸化ユビキチン鎖に由来する信号を捉えて、パーキンソン病の発症につながりかねない’ミトコンドリア異常’を高感度で検出することなど、将来は応用的な側面も期待できます。


参考文献

Kei Okatsu、Fumika Koyano、Mayumi Kimura、Hidetaka Kosako、Yasushi Saeki、Keiji Tanaka、Noriyuki Matsuda.
Phosphorylated ubiquitin chain is the genuine Parkinreceptor.J Cell Biol.
20150413, 209 (1):111-28. doi: 10.1083/jcb.201410050.

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