HOME広報活動刊行物 > April 2016 No.021

研究紹介

皮膚の健康と病気を調節する脂質の新しい役割の発見

米国科学誌「Journal of Experimental Medicine(ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン)」に脂質代謝プロジェクトの山本圭研究員、村上誠プロジェクトリーダーらの研究成果が発表されました。

脂質代謝プロジェクト 研究員山本 圭

プロジェクトリーダー村上 誠


1.研究の背景

私たちは生命応答における脂質の役割を解明すべく、リン脂質分解酵素ホスホリパーゼA2(PLA2)群の研究を進めています。この過程で、表皮に特異的に発現しているPLA2によって産生されるユニークな脂質が皮膚疾患に関わることを発見しました。


2.研究成果の概要

皮膚異常を発症するモデルマウスの全遺伝子の発現を比較すると、これまで機能が不明であったリン脂質分解酵素(PLA2G2F:分泌性PLA2のひとつ)が表皮に強く発現していることを発見しました。また、ヒト乾癬患者の肥厚した表皮ではこの酵素の発現が増加していました。PLA2G2Fを過剰に発現させたマウスを作成すると、乾癬に似た皮膚疾患の症状を示しました。一方、PLA2G2Fを欠損させたマウスに乾癬やかぶれを引き起こすと、表皮の肥厚と活性化が抑えられ、病態が改善しました。さらにこれらのマウス皮膚の脂質の全解析を行った結果、PLA2G2Fは表皮のエーテル型リン脂質(プラズマロージェン、P-PE)をリゾリン脂質(P-LPE)に変換し、乾癬やかぶれを悪化させることが明らかになりました。(図参照)。


3.発見の意義

本研究は、皮膚に発現している脂質代謝酵素PLA2G2Fにより作り出されたリゾリン脂質が生命応答の調節に関わることを初めて示したものです。本酵素やリゾリン脂質を標的とした創薬は、難治性皮膚疾患の新規創薬につながることが期待されます。


参考文献

Yamamoto K, Miki Y, Sato M, Taketomi Y, Nishito Y, Taya C, Muramatsu K, Ikeda K, Nakanishi H, Taguchi R, Kambe N, Kabashima K, Lambeau G, Gelb MH, Murakami M. The role of group IIF-secreted phospholipase A2 in epidermal homeostasis and hyperplasia.
Journal of Experimental Medicine 2015 Oct 19; 212:1901-1919. doi: 10.1084/jem.20141904

図

脂質代謝酵素PLA2G2Fはリゾリン脂質P-LPEを産生して乾癬を増悪する。

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