HOME広報活動刊行物 > April 2016 No.021

研究紹介

タウの異常構造の違いによる認知症の生化学分類

国際科学雑誌「Acta Neuropathologica (アクタ・ニューロパソロジカ)」に認知症プロジェクトの長谷川成人プロジェクトリーダーらの研究成果が発表されました。

認知症プロジェクトリーダー長谷川 成人


1.研究の背景

アルツハイマー病(AD)をはじめ、ピック病(PiD)※¹、皮質基底核変性症(CBD)※²や進行性核上性麻痺(PSP)※³など、タウの異常が原因と考えられる認知症が多数あります。タウは本来、神経細胞の形態維持や物質輸送に働くタンパク質ですが、患者脳では異常な線維構造をとり蓄積し、それが神経細胞に障害を与えることで症状が現われると考えられます。大人の脳では6種類のタウが発現し、配列の違いから3Rタウと4Rタウに大別されますが、不思議なことに、ADでは3Rタウと4Rタウの両方が、PiDでは3Rタウが、CBDやPSPでは4Rタウが蓄積します。このように疾患の種類ごとに特徴的なタウ病変が出現し、疾患分類の基盤になっていますが、なぜ様々なタウ病変が出現するのか、それは何に起因するのかなどは明らかではありませんでした。


2.研究成果の概要

私達は、AD、PiD、PSP、CBDなどの剖検脳から異常型タウを分離し、生化学・免疫電顕などの詳細な解析を行いました。また、トリプシンに耐性を示すタウの領域についても質量分析などの解析を行いました。その結果、疾患ごとにタウの自己重合に関わっている領域が微妙に異なること、その違いは重合したタウ線維の形と関係していることが示されました(図1)。本研究結果は、様々な認知症疾患に出現するタウ病変の多様性と規則性が、最初に形成されるタウの異常構造の違いによって決まる可能性を示唆します。


3.発見の意義

今回の解析から、実際の患者脳における異常型タウの構造の違いが明らかとなり、タウオパチーの生化学分類に使えます。また、タウの異常構造の違いを区別する化合物や抗体のデザイン、診断薬や疾患特異的なPETプローブの開発、さらには治療薬や治療法の開発に役立つことが期待されます。

図1

図1

用語解説

※1 ピック病:若年性認知症の中核的な疾患で、主に前頭葉の神経細胞が変性することにより、性格変化や自己抑制がきかなくなるような症状を特徴とする認知症。

※2 皮質基底核変性症:手が思うように使えないなどの大脳基底核の異常に伴う症状や、筋肉の硬さ、動作緩慢、歩行障害などのパーキンソニズムが同時にみられる病気。

※3 進行性核上性麻痺:後ろ向きに転倒し易い、上を見ることができないなどの症状やパーキンソニズム、認知症を伴う病気。


参考文献

Taniguchi-Watanabe S, Arai T, Kametani F, Nonaka T, Masuda-Suzukake M, Tarutani A, Murayama S, Saito Y, Arima K, Yoshida M, Akiyama H, Robinson A, Mann DM, Iwatsubo T, Hasegawa M. Biochemical classification of tauopathies by immunoblot, protein sequence and mass spectrometric analyses of sarkosyl-insoluble and trypsin-resistant tau. Acta Neuropathologica. 2016 Feb;131(2):267-80. doi: 10.1007/s00401-015-1503-3.

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