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Jul. 2017 No.026
神経病理学速報紙「Acta Neuropathologica Communications (アクタ ニューロパソロジカ コミュニケーションズ)」に研修生の下沢明希(首都大学東京、博士課程)らの研究成果が発表されました。
認知症・高次脳機能研究分野 分野長長谷川 成人
αシヌクレイン*1(αS)はパーキンソン病やレビー小体型認知症の原因蛋白質であり、その異常病変の広がりと症状の相関が示されています。マウスの実験で、線維化した異常型αSを脳内へ接種すると、内在性αSが異常型に変化して蓄積し、細胞間を超えて拡がるプリオン*2様伝播の現象が実験的に観察されています。今回、よりヒトに近い動物モデルとして注目されている小型霊長類のマーモセットに、線維化した異常型αSを接種する実験を行いました。
マーモセットの線条体に線維化αSを接種し、3ヶ月後の脳を観察すると、線条体の他、黒質、大脳皮質、扁桃体などに異常リン酸化αS病変の出現と脳内伝播を確認しました。特に線条体から黒質に逆行性に広がり、黒質のチロシン水酸化酵素*3陽性のドパミン神経細胞内に多数の異常αS病理が形成され、それに伴い神経細胞の減少が観察されました。また、これら異常αS構造物は、チオフラビンなどのβシート構造を認識する蛍光試薬で検出されることも確認されました。マーモセットにおいても、3ヶ月という短期間で患者脳に蓄積するような異常αS病理が形成され、逆行性に伝播することが観察できました。
このマーモセットモデルは、αSの伝播メカニズムの解明をはじめ、異常αSを特異的に検出するPETプローブの評価や、進行を抑える根本治療薬の評価に役立つことが期待されます。
αシヌクレイン線維を接種した3ヶ月後のマーモセット右脳における異常リン酸化αシヌクレイン抗体(pS129)による免疫染色像(右図: 接種部位付近の冠状断の半球切片における病変を赤色で示す、左図: 異常リン酸化αS病変が出現した部位の拡大図 )。下図はβシートリガンドであるFSBによるαシヌクレイン病変の染色像を示す。
αシヌクレイン線維を接種したマーモセット右脳黒質のチロシン水酸化酵素とリン酸化αシヌクレインの免疫染色
上段: リン酸化αシヌクレイン(pS129, 赤)とTH(緑)の免疫組織染色。右側に多くのpS129陽性のαシヌクレイン凝集体が認められる。
下段: αシヌクレイン線維を接種したマーモセット脳の右側と左側のαシヌクレイン凝集体数とTH陽性神経細胞数の定量を示す。
Shimozawa A, Ono M, Takahara D, Tarutani A, Imura S, Masuda-Suzukake M, Higuchi M, Yanai K, Hisanaga SI, Hasegawa M.
Propagation of pathological α-synuclein in marmoset brain.
Acta Neuropathol Commun. 2017 Feb 2;5(1):12 doi: 10.1186/s40478-017-0413-0.