HOME広報活動刊行物 > Jan 2018 No.028

研究紹介

マウスMcm2〜7六量体複合体は強力なDNA鎖のアニーリング(相補対形成)活性を有する

英国科学雑誌「Nucleic Acids Research」に高井裕子主席研究員と正井久雄副所長が 「マウスMcm2〜7六量体複合体は強力なDNA鎖のアニーリング(相補対形成)活性を有する」 について発表しました。

ゲノム動態プロジェクト 主席研究員高井 裕子(Zhiying You)


真核生物DNA複製で、二本鎖DNAがほどけてゆく反応は、もっとも重要な過程の一つです。この反応には、DNAヘリカーゼという酵素が重要な役割をはたします。Mcm2〜7六量体複合体は、DNA複製過程に必須な役割を果たす生物種に保存されたヘリカーゼの主要な因子であることが知られています

私は、MCM複合体の一部であるMcm4/6/7複合体がDNAヘリカーゼ活性を持つことを世界に先駆けて発見し報告しました(You et al. 1999)。ところが、細胞内で重要な機能を果たすことがわかっているMcm2〜7六量体複合体は、これまで通常の条件下ではヘリカーゼの活性を示さないことから、未知の制御機構があると推測されていました。

その後、Mcm2~7六量体複合体が、他の複製因子である、Cdc45およびGINSと複合体を形成することにより、初めて活性のあるDNAヘリカーゼとなることが明らかとなりました。しかし、依然として、なぜMcm2〜7六量体複合体がヘリカーゼ活性を示さないかは不明でした。

今回、私たちは精製されたマウスのMcm2〜7が、DNAヘリカーゼの逆反応である、二本の相補的な一本鎖DNAを会合させて、二本鎖DNAを形成するアニーリング(相補対形成)活性を持つことを発見しました。さらに、ヘリカーゼ活性によりはがされた 一本鎖DNAが、相補鎖形成することを阻害する条件では、Mcm2〜7は効率のよいヘリカーゼ活性を示すことを発見しました。このことからMcm2〜7は単独でヘリカーゼ活性を有するが、逆反応の活性のためにこれまで検出されていなかった可能性が示されました。

相補鎖形成反応は、DNA損傷などにより複製フォークが停止した時に生じる一本鎖DNAを二本鎖へと戻すことにより、複製フォークが壊れてしまわないようにする重要な役割があると考えられます。今回の発見は、Mcmが複製の過程で二本鎖DNAをほどいてゆくだけでなく、がんなどの疾患の原因となる、ゲノムの崩壊を防ぐという重要な働きをしていることを示します。

Mcm2〜7六量体複合体のDNAヘリカーゼとアニーリング(相補対形成)活性イメージ

図:Mcm2〜7六量体複合体のDNAヘリカーゼとアニーリング(相補対形成)活性イメージ。
Mcm2〜7六量体複合体(ピンク色)はCdc45(黄色)とGINS(緑色)と共同でCMG複合体を形成し二本鎖DNAをほどくヘリカーゼ活性を示す(左向きの反応)。一方、Mcm2〜7六量体複合体は、単独で相補的な1本鎖DNAの相補対形成を促進する(右向きの反応)。後者の反応は、ゲノムの崩壊を防ぐことにより、がんなどの疾患発生を妨げる働きを果たす。


参考文献

OZhiying You and Hisao Masai. Potent DNA strand annealing activity associated with mouse Mcm2~7 heterohexameric complex. Nucleic Acids Res. 45, 6494-6506. 2017.

ページの先頭へ