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枝分かれした(分岐型)ユビキチン鎖がタンパク質分解を制御することを発見
~疾患の発症機構解明につながることを期待~

米国科学誌 「Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America (PNAS)」に蛋白質代謝研究室 主席研究員 大竹史明らの研究成果が発表されました。

蛋白質代謝研究室 主席研究員大竹 史明


1.研究の背景

細胞内のタンパク質は常に新陳代謝を受け、新たに合成されたタンパク質と置き換わっています。このようなタンパク質分解は、異常になったタンパク質を除去することで細胞を健全に保つ役割に加え、細胞内外の状況に応じて特定のタンパク質を迅速に分解することで細胞の機能を調節する役割も有しています。

このようなタンパク質分解の多くは、ユビキチン・プロテアソーム系を介して制御されています。ユビキチンは小型のタンパク質であり、他のタンパク質に「目印」として付加されることで(ユビキチン修飾と呼びます)、標的タンパク質の機能を様々な形で調節します。その中でも代表的な機能は、ユビキチンを付加されたタンパク質が、プロテアソームというタンパク質分解酵素に運ばれて分解されるための目印となることです。ユビキチンの機能に異常が生じると、がん、免疫疾患、神経変性疾患などの病気の発症につながります。


2.研究成果の概要

ユビキチンは互いに連結して、鎖状に連なった「ユビキチン鎖」を形成します。連結する位置の違いによって8通りの形状のユビキチン鎖が存在し、それぞれが異なる目印として働くと考えられています。プロテアソームに運搬される目印となるユビキチン鎖については多くの研究がなされてきましたが、未だその全貌はわかっていません。

私たちはこれまでに、ユビキチンがリジン48番とリジン63番という2か所で枝分かれした形状(分岐型)のユビキチン鎖を見出し、さらなる解析を続けてきました。その結果、このタイプの分岐型ユビキチン鎖がプロテアソーム依存的なタンパク質分解に関与していることを発見しました(図参照)。

さらに、分岐型ユビキチン鎖を形成する2種類の酵素を同定しました。詳細な解析の結果、両者が協調して分岐型ユビキチン鎖を形成する分子メカニズムを突き止めました。

図

3.発見の意義

今回の研究により、特定のタンパク質がプロテアソーム依存的な分解経路へと誘導される、新たな経路が明らかになりました。さらに、分岐型ユビキチン鎖を介したタンパク質分解がアポトーシス(制御された細胞死)に関与している可能性が示唆されています。ユビキチン・プロテアソーム系の作用機構の理解は、将来的に、未解明の疾病のメカニズム解明や治療法開発に繋がることが期待されます。


参考文献

K63 ubiquitylation triggers proteasomal degradation by seeding branched ubiquitin chains
Fumiaki Ohtake, Hikaru Tsuchiya, Yasushi Saeki, Keiji Tanaka.
Proc Natl Acad Sci U S A. 115(7) : E1401-E1408. doi : 10.1073/pnas.1716673115.

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