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開催報告

第5回 都医学研都民講座 (平成30年10月25日実施)

「白血病治療法の最前線」

生体分子先端研究分野 分野長原 孝彦

白血病は血液細胞のがんで、進行が早いことから直ぐに治療を受けなくてはいけない病気です。今回の都民講座では、自治医科大学名誉教授の小澤敬也先生をお招きして、「発展を続ける白血病治療法の歴史と未来」と題して、歴史的背景から最前線の研究情報までたっぷり解説して頂きました。白血病は、由来と特性に基づいて骨髄性とリンパ性とに分類され、症状に応じて急性か慢性かに診断されます。急性骨髄性白血病(AML)の治療では、まず強い抗がん剤によって骨髄中の白血病細胞を減らし、正常白血球の回復具合を見ながら別の抗がん剤を投与する地固め療法、そして造血幹細胞移植によって治癒を目指します。急性前骨髄球性白血病ではATRAという特効薬が開発されて治療成績が84%まで上がりましたが、他のAMLの化学療法成績は47%ほどだそうです。慢性骨髄性白血病の場合では、特異的阻害剤イマチニブが開発されたことで85%の患者が治るようになりました。急性Bリンパ芽球白血病(B-ALL)に対してもリツキシマブという分子標的薬が開発されましたが、急性Tリンパ芽球性白血病(T-ALL)に対する特効薬はまだ開発されていません。私たちは、T-ALL細胞を選択的に死滅させる天然化合物を発見し、同等物質の有機化学合成に成功しました。開発の道程は長いですが、T-ALL薬の実装を目指して日々研究を重ねているところです。

2018年10月1日、京都大学の本庶佑教授が免疫チェックポイント阻害剤オプジーボの標的分子PD-1の発見によって、ノーベル賞を授賞されました。オプジーボはがんを認識する細胞障害性T細胞のブレーキを解除することでがん免疫力を最大化する薬で、悪性黒色腫や肺癌を患う多くの患者の命を救っています。実に革新的な医療技術です。現在、それと並んで注目されているがん免疫療法が、キメラ抗原受容体を遺伝子導入した細胞障害性T細胞を移入するCAR-T細胞療法です。B-ALL患者に対する優れた治療効果が実証され、昨年販売認可がおりました。CAR-T細胞療法は様々な白血病や固形癌に応用可能なため、米国と中国で現在300件以上の治験が進行中だそうです。小澤先生が率いるタカラバイオ講座でも国内初のCAR-T療法を開発されており、貴重な実験データも紹介して下さいました。今回参加して下さった都民の皆様とともに、白血病治療の画期的な将来展望を学べた1時間であったと思います。

第4回 都医学研都民講座 写真
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