◆年頭所感
所長 田中 啓二
昨年、東日本大震災という未曾有の国難に遭遇、我が国の未来に暗い影を落としました。丁度その(未来永劫、決して消し去ることができないであろう)年にわが東京都医学総合研究所(略称:都医学研)は「誕生」の産声を上げたのであります。東京都福祉保健局所管の旧医学系三研究所(神経研・精神研・臨床研)は、その長い歴史に終止符を打つと共に再編・統合して新しい都医学研が発足しました。世の東西を問わず社会情勢に適応した組織の統廃合は必然であり、時代の流れに適切に対処し発展を目指すことは生存戦略の要であります。巷間流布している言葉を引用すれば、「選択」と「集中」を基軸とした「改革」に取り組み、都民が真に必要とする研究所に大きく成長することが、都医学研には要請されています。さて都医学研が発足して約十ヶ月が過ぎ去ろうとしていますが、大惨禍の余波は、昨夏における節電対策等を含め、直接間接を問わず数々の課題が押し寄せてきおり、閉じた幕の余韻・感傷に耽っている時間的余裕はありません。三十五余年存続した旧研究所・三組織が一所化することによって、それまで矛盾なく稼働していた多くのシステムも、少なからず変更を余儀なくされ、理念的には理解できても実行に当たっては、不条理の焦燥感に苛まれる場面に幾度となく遭遇して参りました。再編は創成より遥かに大きな困難を伴うというのは、正直な感想であります。しかし、私はあえて都医学研の発足を「新生」と呼びたいと思っています。「新生」という言葉の響きは、統合という消極的な発想に比して少なくとも積極的に何か未知を創成しようとする強い意志と情熱が籠っています。と同時に新生のためには、これまで培ってきた知恵や財産の一部の喪失をやむを得ず甘受することもまた必要でした。過去を切り捨てる覚悟とともに未来に継承する意思の均衡を見据えて、現在の充実を図ることがもっとも大切であります。これまでの数年間、喧々囂々(けんけんごうごう)たる様々な議論を闘わして漸く新研究所の誕生に漕ぎ着けたことについては、機会ある毎に述べてきましたので、今日それらの後向きの感慨は密閉し、今後は前向きの議論を全面的に展開していくことが何よりも必要であると考えています。
さて組織が大きくなれば、システムの再編・改革は不可避であります。小さな研究所では、執行部が全てを差配して物事を決定し、所属する研究者たちが研究に集中・専念できる環境を作ることが、最大の使命と思ってきました。しかし組織が大きくなれば、少数の執行部で全てを処理することは、もはや不可能に近いと言わざるを得ません。したがって新生「都医学研」においては、新しい運営方法を導入することが必至となってきました。改革の大きな方向性としては、とくにプロジェクト制を基軸とした研究分野と基盤技術研究センターの位置付けを明確にし、ともすれば過小評価しがちな後者を抜本的に拡大・充実、さらに知的財産活用センターも整備し直して研究所全体の発展をアシストする体制を構築しました。両センターは、再編した事務局と共に研究所を支える車の両輪としての積極的な役割を担って頂くことになります。さらに六研究分野(HP参照)を率いる分野長には大きな権限と責任を委ねて、研究所運営の柱とする方針も導入しました。研究面において最も活躍が期待されており、自らもまた研究活動へ邁進することを強く希望している各担当分野長に、研究活動と組織運営という二股の役割・職務を要請したことは、私としては不本意な側面もあり且つやや引け目を感じて申し訳なく思っているところであります。しかしながら時間軸を念頭におけば、やがて彼らが若い研究者たちと連帯して研究所を率いてゆく体制へ移行することが抗し難い必然であります。この状況を忖度(そんたく)しますと、この方針は苦渋の選択という他に言葉はありませんが、新研究所が長期に亘って大きく発展していくためには、組織運営に携わる人材の育成もまた不可避であると思われます。私は「新生」研究所が誕生した前後の激動の数年間が最も重要であると考えてきました。手を拱いて時勢に流されることは、至極簡単であり(できればこの安易な案に乗って自分の好きな研究に専念できれば、非常に楽しく時を過ごせるとの思いも強かったのですが)、この大変革の時期に真に必要な改革ができなければ、本質的な改革は未来永劫できないかもしれないという切迫感を心の拠り所として様々に取り組んできました(幾ばくか誇張気味ですが・・・)。新生「都医学研」が分野長を先頭に構成員全てが一丸となって夫々(それぞれ)のプロジェクト研究を発展させ、その結果として「高齢化社会における都民の健康を守る」という研究所の大目標に大きく貢献してゆくことができることを心底から期待しています。
さて新生「都医学研」は、研究者たちの発案・主導による(ランチョンセミナー・イブニング談話会・サイエンスカフェ等)新しい企画が相次いで登場し、活況を呈しています。これらの活動に多くの若い研究者たちが(一寸若くない研究者たちも交えて)積極的に参画し、現在、もはや旧三研究所の(悪しき既得権や因習に固執する)垣根はほぼ完全に消滅したかのように思われます。また研究者たち相互の交歓も非常に活発であり、僅か1年足らずの間に、旧研究所間のわだかまりや利害の衝突による研究の遅延といった当初漠然と抱いていた杞憂が完全に払拭されつつあります。研究所の一体感がこのような短期間内に達成され、予想を遥かに超えて迅速に軌道に乗ったことは、私は、望外の歓びと感得しています。さらに異分野の情報や最先端技術が遮断なく手軽に入手できる環境になり、多くの研究者たちから「統合が相加的・相乗的効果」を生んでいるとの声が満ち溢れている現下の状況は、正に想定外の出来事のように思われます。私は、この統合の効果による新生「都医学研」の華々しい成果が、近未来に世界に向けて発信し続けて行くことになると信じて疑いません。職員夫々(それぞれ)が、個々人の夢と都医学研の大きな目的の成就を目指して積極的に活動して、その切磋琢磨の結果が研究所と構成員の繁栄に繋がるように今後のご健闘を切に望むものであります。以上、新年を迎えてのご挨拶とさせていただきます。


