東京都医学総合研究所のTopics(研究成果や受賞等)

HOMETopics 2014年

TOPICS 2014

2014年5月21日

英国科学雑誌「Cell Trends in Endocrinology & Metabolism」に病院等連携研究センター・神経病理解析室の増井憲太研究員の研究成果が発表されました。

がん代謝におけるmTOR複合体2の役割について

1.本総説の背景

近年、がん特異的な現象として、好気的解糖(ワールブルグ効果)、脂質やアミノ酸および核酸合成の亢進といった代謝系のリプログラミングが注目され、この代謝現象がどのようにがんの病態に関与しているのかということは、がん研究における重要なトピックとなっています。細胞内代謝のキープレイヤーとして知られるmTOR複合体はmTORC1とC2に分類され、mTORC1とがんとの関係はこれまで非常に注目されてきました。一方、われわれの研究を含めて近年、mTORC2が代謝を含むがんの生物学に重要であるという新規の病態が明らかになってきていますが [Masui et al. Cell Metabolism 2013]、その知識を系統的にまとめた報告はこれまでほとんどありません。今回われわれは、脳腫瘍の大家で脳腫瘍WHO分類の編集者でもあるWebster Cavenee教授、脳腫瘍の標的治療およびがん代謝分野のトップランナーであるPaul Mischel教授とともにがん代謝というホットなトピックにおけるmTORC2の役割をまとめ、総説として発表しました。

2.本総説の概要

代謝系のリプログラミングはがんにおける中心的な特徴のひとつで、急速に増殖するがん細胞に必要な材料およびエネルギー需要を満たす役割を果たしている、と考えられています。がん遺伝子の異常およびそれに伴う細胞内シグナル異常ががんの代謝を制御する仕組みを解明することで、がんの病態のみならず、がんの有望な治療標的や現在使用されている分子標的治療に対する抵抗性機序に関しても理解が進むと考えられます。本総説では、上皮成長因子受容体(EGFR)を含む多くのがん原性遺伝子変異の下流で効果器として働き、近年がん生物学においてその重要性が認識され始めているmTORC2(mammalian/mechanistic target of rapamycin complex 2)の代謝系のリプログラミング(解糖系、グルタミン代謝、脂質代謝、核酸および活性酸素代謝)における役割を、がん原性の転写因子c-Mycとの関わりを中心に詳説しています。また、がんにおける最先端のトピックであるエピジェネティクスと分子標的治療にmTORC2関連の代謝現象が与える影響を、特に難治性の悪性脳腫瘍である膠芽腫(グリオブラストーマ)に注目して考察しています。がんが活発に増殖する際に、これらの細胞内システムがどのようにして利用されているかということに関してはまだまだ学ぶべきことが多々ありますが、これらの研究を進め一つ一つの知識を集積してまとめていくことで、難治性のがんに対して新規治療法の確立という形で貢献できるものと考えられます。


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