筋肉を守るカルパイン3は分解してもまた合体して機能する
― カルパイン3が筋ジストロフィーを防ぐための新奇なメカニズムを発見 ―
~筋ジストロフィーの新たな治療法の可能性~
カルパインプロジェクトの小野弥子主席研究員を筆頭として、基盤技術研究センター、米アリゾナ大学との共同研究で、筋ジストロフィーの責任遺伝子産物であるカルパイン3が通常時に病気を防止している新奇な分子メカニズムを明らかにしました。
カルパイン3は動物の筋肉(骨格筋)に発現するカルパイン注1)で、タンパク質を切断する酵素(プロテアーゼ)です。筋肉の疾患である筋ジストロフィー注2)の一種は、カルパイン3の遺伝子変異によって、この酵素の活性(タンパク質を切断するという働き)が不全となるために発症します。本研究では「正常なカルパイン3の働き」を明らかにするため、筋ジストロフィーの症状とカルパイン3遺伝子変異の関係について新たな視点から解析しました。カルパイン3は、試験管内では自己を分解する強い活性を持つ大変不安定な酵素ですが、筋肉中では2つの断片に切断され、いったん活性を失った後、再び会合して活性を回復して機能しうることを発見しました。このようなプロテアーゼの性質は、ウイルス以外の生物では初めての報告です。つまり、カルパイン3が一見とても不安定なことは、筋肉の中でうまく働くために必要な性質であり、これが「筋ジストロフィーを発症しない状態」の維持に寄与すると考えられました。この性質の発見により、筋ジストロフィーの治療法として全く新しい可能性を示すことができました。
この研究成果は、米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」の12月15日正午(米国東部時間)付オンライン版で発表され、さらに12月23日(米国東部時間)発行の「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」誌に掲載されました。
なお、この研究は、東京都医学総合研究所プロジェクト研究費、文部科学省科学研究費補助金若手研究(B)・基盤研究(A)、東レ科学技術研究助成、武田科学振興財団特定研究助成金を活用して行われたものです。
Ono Y, Shindo M, Doi N, Kitamura F, Gregorio CC, Sorimachi H. (2014) The N- and C-terminal autolytic fragments of CAPN3/p94/calpain-3 restore proteolytic activity by intermolecular complementation.(カルパイン3のN末端およびC末端自己消化化断片は分子間相補によりプロテアーゼ活性を回復する)Proc Natl Acad Sci USA, 111, E5527-5536.