2021年 4月26日及び5月10日 場所:東京理科大学 柏キャンパス(運河)

日程:月曜日,4-5時限目(14:50-16:20, 16:30-18:00,一日2コマ連続)
2. 教室: K606 & Zoom
3. 講義予定
4/26     3, 4回        正井久雄先生(都医学研)
5/10     5, 6回        正井先生
『ゲノムDNA複製制御のメカニズムから明らかになってきたゲノム機能制御の新原理、および疾患解明、新しい治療戦略への応用』
正井久雄(東京都医学研)
授業計画
1回目. 細胞がふえるしくみ:シグナル伝達、細胞周期、染色体ダイナミクス制御の基本
細胞は外界の環境に応答して、その増殖や分化が制御される。この過程はシグナル伝達と呼ばれる。シグナル伝達機構は細胞の遺伝子発現のプログラムを制御するとともに、細胞周期進行の制御を通じて細胞の増殖プログラムを指令する。細胞周期はDNA合成期と細胞分裂期を交互に繰り返すが、シグナル伝達から複製、細胞分裂へと誘導する分子機構の概要を説明する。その過程で染色体は複製、組換え、分配などの過程を経て大きく変動する。細胞周期進行における、これらの染色体のダイナミックな変化とその制御についても基本を説明する。

2回目.  正常細胞とがん細胞を区別するもの:ゲノムの安定性維持機構とその破綻
増殖シグナル伝達、細胞周期は厳密に制御される。その破綻はただちに、細胞の異常増殖、種々の染色体異常などを引き起こし、がんなどの疾患あるいは老化の原因となる。本講義では、私達の研究室で行われている、大腸菌、酵母、動物細胞(正常細胞、がん細胞、胚性幹細胞)、個体を用いた染色体DNA複製制御機構および染色体の安定性維持機構の解析についての最新の研究成果を説明し、ゲノムの安定性を脅かす、種々の生体ストレス、及びそれらから生体を守るシステムを説明する。さらに、最近見出した、正常細胞とがん細胞の染色体複製、増殖戦略の違いに基づく、新たな制がん戦略・創薬に関連する私たちの取り組みも紹介する。

3回目. 染色体複製の普遍性と多様性:その起源と進化
本講義では、大腸菌、分裂酵母、動物細胞など多様なモデル生物を用いた私達の研究から導かれた、原核細胞からヒトまで保存された染色体複製の普遍的メカニズムを紹介する。さらに、最近、新たに作製した複製因子の変異マウスの解析から、種々の複製関連因子の、脳神経系や血球細胞系の増殖や分化に特有な機能が明らかとなってきた。この事実は、増殖に必須なDNA複製システムが、組織や臓器などで多様性を有することを示す。これらの発見に基づき、DNA複製の起源と進化についても議論する。

4回目. ゲノムの新原理の発見を目指して:細胞の増殖、運命を決定する染色体ダイナミクスの制御機構
長大な染色体の複製は、厳密な時間的空間的プログラムに従って秩序正しく進行する。この過程は、核内染色体高次構造の制御と密接に関連し、転写、組換え、修復などの染色体ダイナミクスとも連動する。本講義では、ゲノムワイドの染色体複製開始・進行の時空間制御機構の最新のメカニズムを解説し、さらに、 これらの研究から、B型右巻き二重らせん構造以外の非標準型DNA構造(グアニン4重鎖構造、RNA-DNAハイブリッド)が規定あるいは制御する、新しいゲノム情報が明らかとなってきた。ゲノムの新原理の解明に挑む私たちの研究を紹介する。

(正井先生からのコメント)講義では、生物の最も基本的な機能であるDNA複製のメカニズムの研究を基盤に、最近の知見がもたらした、複製機構の普遍性と多様性、さらに、核酸の「形」が指令するゲノム制御シグナル、さらにそれらと疾患の関連と創薬への応用について議論します。皆さんもいろいろな生物を研究されているとおもいますが、DNA複製が生物種によりどのように多様であるのか、その制御が、生物の種々の機能にどのように関与している可能性があるか、また、核酸(DNAとRNA)の構造の多様性が、ゲノム機能の制御や疾患の発生に関与するメカニズムについて、講義の内容を聞きならが、是非考えてみてください。