Scavenger receptor B2 is a cellular receptor for enterovirus 71
(Scavenger receptor B2はエンテロウイルス71の感染受容体である)

背景

エンテロウイルス71はピコルナウイルス科エンテロウイルス属にされる。直径28-30nmのエンベロープを有しないウイルスである。本ウイルスは、主に5歳以下の乳幼児に手足口病を引き起こすことが知られている。また、稀ではあるが脳炎や急性弛緩性麻痺などの中枢神経疾患を示すことがあるために注意が必要なウイルスでもある。近年中国で、エンテロウイルス71の大規模な流行が起こり、およそ1500名の死亡例が報告されている。大流行が起こった国では、その後もエンテロウイルス71に感染した乳幼児が中枢神経症状を示し、死に至る例が毎年報告されている。

我々は、“エンテロウイルス71が通常は手足口病という予後の良好な病気しか引き起こさないのに、時として中枢神経病原性を示すのはなぜか“という疑問を解明しようと研究を進めている。その端緒として、エンテロウイルス71の感染受容体の同定を試みた。ウイルスが細胞へ侵入する際に利用する細胞側の蛋白質を感染受容体(レセプター)という。ウイルスは感染受容体が存在しない細胞には感染することが出来ないため、どのような細胞にウイルスの感染受容体が発現しているかが、ウイルスによって引き起こされる病気(病変)の第一の決定因子となる。であるから、ウイルスの感染受容体が“どのような蛋白質であるのか”を同定することは、そのウイルスによって引き起こされる病気をより詳細に理解するために必須である。

研究結果の概要

我々はエンテロウイルス71の感染受容体同定のため、エンテロウイルス71に高感受性であるヒト横紋筋腫由来のRD細胞のゲノムDNA(ドナー)と、低感受性であるマウス由来L929細胞(レシピエント)を用いて、エンテロウイルス71の感染を指標に発現クローニングを行った。非感受性細胞への感受性の付与実験、感染阻害実験およびウイルスとの結合実験などの結果(図1a-d)、Scavenger receptor B2(SCARB2)がエンテロウイルス71の感染受容体として機能することを示した。

図1:SCARB2がエンテロウイルス71の受容体として機能する
図1:SCARB2がエンテロウイルス71の受容体として機能する

a:ヒトのSCARB2をL929細胞に安定発現させたL-SCARB2細胞(■)におけるエンテロウイルス71の増殖はRD細胞(●)での増殖とほぼ同程度であり、L929細胞(○)での増殖より効率が良い。
b:RD細胞にヒトSCARB2に対する抗体を前処理することにより、エンテロウイルス71の感染は阻害された。Negative ControlとしてNormal goat IgGを使用した。
c:感染前にウイルスと精製ヒトSCARB2蛋白質を混合することにより、エンテロウイルス71の感染は阻害された。BSAは精製ウシ血清アルブミンである。
d:ヒトSCARB2の細胞外領域に、ヒトIgGのFc領域を融合させたSCARB2-Fcとウイルスを混ぜ、プロテインGビーズでPull-downした。SCARB2-Fcとウイルスを混ぜた時にのみ、ウイルスの構造蛋白質VP1が検出されたので、エンテロウイルス71粒子とSCARB2-Fcが結合していることが確認された。

SCARB2は、CD36遺伝子ファミリーに分類される。このファミリーには、他にCD36とSCARB1が属している(図2a)。SCARB1には2つのスプライシング変異体が存在しており、それぞれSR-BI、SR-BIIと表記される。SR-BIIとSCARB2は別の蛋白質を示すので混同しないよう注意が必要である。SCARB2は478アミノ酸からなり、N末端およびC末端を細胞内領域とする膜二回貫通型蛋白質である(図2b)。主にリソソームに存在しているが、小胞輸送とともに輸送され、形質膜などにも存在している。働きとしては、リソソーム内の酵素などを小胞体から運んでくる役割がある。

図2:SCARB2について
図2:SCARB2について

a:CD36遺伝子ファミリーは3つのメンバーが存在する。
b:SCARB2の構造。N末端、C末端の両方を細胞内領域としている。

研究結果の意義

エンテロウイルス71の感染受容体を同定したことにより、感染サイクルの初期過程の理解が一層進むことが期待される。特に、感染受容体が同定されなければ解析不可能である“ウイルスと感染受容体の結合”に関する知見は、今回の発見を機に研究が始まるであろう。また、エンテロウイルス71の感染にSCARB2が非常に重要な分子であるので、両者の結合を阻害するような化合物を探索することで、治療薬開発への基礎的知見を提供出来るかもしれない。

一方、エンテロウイルス71の感染受容体として同定されたSCARB2が手足口病や中枢神経病変などのエンテロウイルス71によって引き起こされる病気にどの程度関係しているのかは今後の検討課題である。それらを解明するためには、ヒトSCARB2を発現するマウスの開発により、エンテロウイルス71感染マウスモデルを樹立し、それを用いた解析を進めることが必須である。一方で、エンテロウイルス71感染マウスモデルの樹立は、未だ開発されていない治療薬やワクチンの評価・検定に無くてはならないと考えられる。

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