公益財団法人 東京都医学総合研究所 蛋白質代謝プロジェクト

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プロテアソームに関する研究

プロテアソームの構造と作動機構

プロテアソームによるユビキチン化タンパク質の分解は、ユビキチン鎖の認識、ユビキチンの除去、標的タンパク質の解きほぐしと活性中心部分への送りこみ、標的タンパク質の加水分解、という多段階の反応により遂行される。しかしながら、これらの素反応がどのように高次に統合されているのか未だ明確ではない。これまで私たちは、26Sプロテアソームの高純度精製法を確立し、試験管内におけるユビキチン化タンパク質分解の完全再構築系に成功してきました(図1)。現在、各プロテアソーム変異体を用いてユビキチン化タンパク質を分解する過程を詳細に解析するとともに、X線結晶構造およびクライオ電子顕微鏡、さらに高速原子間力顕微鏡による構造解析・動態解析を共同研究で進めており、超分子複合体であるプロテアソームの作動機構の全貌を明らかにしたい。

図1. 精製プロテアソームのSDS電気泳動像と試験管内ポリユビキチン化反応
図2. プロテアソームの原子構造モデル

プロテアソームは触媒ユニットであるCore Particle (CP)の両端に調節ユニットRegulatory Particle (RP)が会合した構造をもつ(PDB ID: 4B4Tを改変)。RPは脱ユビキチン化酵素サブユニットRpn11を含む「蓋部」とユビキチンレセプターサブユニットRpn10、Rpn13およびATPaseリングを含む「基底部」に分離することができる。CPはα、βリングがαββαの順で重なった4層構造をもち、触媒サブユニットβ1、β2、β5の活性部位は分子内部に隔離されている。αリング中央の孔はゲート構造により塞がれているが、ATPaseサブユニットのHbYXモチーフがαリングと相互作用することにより開く。

プロテアソームの分子集合機構

不要タンパク質を迅速に確実に分解するためには、分解マシンであるプロテアソーム自体が正確に組み立てられる必要がある。プロテアソームは66個のサブユニット(部品)から形成するが、これまで私たちはプロテアソーム形成に関与する専用シャペロンを10種類以上同定し、プロテアソームの分子集合機構を明らかにしてきました(図2)。さらに、専用シャペロンの構造解析およびプロテアソーム中間体の試験管内再構築に成功し、プロテアソーム形成の詳細を明らかにしてきました。私たちが明らかにした特異的シャペロン依存性の分子集合機構の概念は、他の超分子複合体形成における基本原理となり得ることが期待されます。一方、プロテアソームの活性阻害剤Bortezomib(商品名Velcade)、Carfilzomib(商品名Kyprolis)は血液がんの一つ多発性骨髄腫の治療薬として用いられているが、プロテアソームの分子集合を標的とした、新しい作用機序の抗プロテアソーム薬の開発も期待されます。

図3. プロテアソームの分子集合機構

約33種類66個のプロテアソームサブユニットはそれぞれ部分集合体であるモジュールやαリングを形成し、サブ複合体を経てRPとCPが完成する。その後、RPとCPがATP依存的に会合することにより活性化型の26Sプロテアソームが完成する。基底部とCPの形成にはそれぞれ専用のシャペロンが関与しそれぞれの分子集合を支援する。ATPaseサブユニット(Rpt:regulatory particle triple-A protein)、non-ATPaseサブユニット(Rpn:regulatory particle non-ATPase)をそれぞれTとNと示した.

プロテアソームの細胞内動態

これまで、プロテアソームの細胞内動態に関する研究はほとんどされておらず、プロテアソームは細胞内でどのような状態で存在するのか、細胞内のどこで形成するのかといった知見はほとんど無い。プロテアソームは細胞質および核に存在するが、増殖中の細胞ではプロテアソームは核に多く局在している(図4)。核内プロテアソームの機能は必ずしも明確ではないが、プロテアソームを核から排除すると大量のユビキチン化タンパク質が蓄積することから、核内タンパク質の品質管理や転写因子の分解を行っていると考えられる。私たちは、生きた細胞におけるプロテアソーム複合体の動態を明らかにするため、蛍光相関分光法を用いた解析を行っている。これまで酵母を用いた解析より、プロテアソームの細胞質の濃度は約200nM、核質における濃度は約1μMであること、プロテアソームサブユニットはほぼ全て完成したプロテアソームに取り込まれていること、細胞質と核のプロテアソームの約半数は、何らかの細胞小器官(小胞体やゴルジ体など)や転写マシナリーと相互作用していることがわかってきました。さらに現在、ヒトの細胞における動態や、ストレス存在下におけるプロテアソームの動態変化を解析しており、興味深い知見が得られています。

図4. プロテアソームの細胞内におけるダイナミクス

免疫型プロテアソームによる自己非自己の識別

適応(獲得)免疫の最大のテーマは「自己と非自己の識別」である。非自己の多様性識別機構については、抗体やT細胞受容体(TCR)をコードする遺伝子の再構成システムの発見によって解明されたが、同じ素材(ほとんどの場合20種のアミノ酸から構成されたペプチド)で生成される自己と非自己を厳格に識別することは容易でない。多数のノーベル賞を輩出した免疫研究史を俯瞰すると、この基本命題はすでに解明済みと錯覚しがちであるが、実際には今なお深い謎に包まれている。勿論、教科書的には抗原ペプチドを収容した主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)とTCRの相互作用によって非自己の侵入を感知すると記載されているが、非自己抗原のMHC提示機構(分子レベルの自己と非自己の識別機構)の研究は、依然として古くて新しいテーマである。細胞性免疫(Cell-mediated Immunity)の場合、1994年、われわれは内在性抗原のプロセシングに特化した酵素として“免疫プロテアソーム”を発見した(Science 1994他:図5)が、この亜型酵素の研究は、その変異によるプロテアソームで最初のヒト遺伝病(中條-西村症候群)が発見されるなど未だ多くの未知を孕んでおり、現在、国内外で多面的に研究されている。

「自己と非自己の識別」を生体レベルで考えると、その原点はクローン選択説で予言された無数のTCRを持つCD4+ or CD8+ Tリンパ球のレパトア形成に集約できる。CD8+ T細胞のレパトア形成は胸腺で行われ、皮質での正の選択(positive selection:有用なT細胞の生存)と髄質での負の選択(negative selection:自己と反応する有害な細胞の除去)という2段階の‘教育’によって成し遂げられるとする仮説が、十数年前に免疫の世界を蹂躙した。しかしその後、レパトア形成は「負の選択」のみで十分であり「正の選択」不要論が学会の主流を占める時代が続いたが、申請者らが2007年cTEC(胸腺皮質上皮細胞)にのみ発現している“胸腺プロテアソーム”を発見すると、状況は一変し「正の選択」必須仮説に転じた。この酵素が正の選択を誘導すること、即ちCD8+ Tリンパ球のレパトア形成(細胞レベルの自己と非自己の識別機構)に必須であることが明らかになったからである(Science 2007, Immunity 2010他:図5)。しかし胸腺プロテアソームには、未解決な課題が山積している。その核心の一つは、胸腺プロテアソームが生成し正の選択を誘導する抗原ペプチドの同定である。現在、本研究課題については、東京大学大学院薬学系研究科・蛋白質代謝学教室・村田茂穂教授徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター・生命システム形成分野・高浜洋介教授のグループと密接に共同研究しながら推進している。
図5. 免疫型プロテアソームの構造と機能

免疫プロテアソームではCPの触媒サブユニットβ1、β2、β5が、サイトカインによって強く誘導されたβ1i、β2i、β5iとそれぞれ置き換わっており、その高いキモトリプシン活性によって、MHCクラスⅠ結合ペプチドを効果的に産生する。一方、胸腺プロテアソームではβ1i、β2iと共に胸腺髄質上皮細胞(cTEC)特異的に発現するβ5tが組み込まれており、正の選択のための特殊なMHCクラスI結合ペプチドを産生している。

図6. 高等真核生物におけるプロテアソームの多様性の獲得

免疫プロテアソームや胸腺プロテアソーム等の免疫型プロテアソームは、適応免疫の獲得と呼応して遺伝子重複により誕生したと推定されている。

       

プロテアソーム変異マウスの機能解析

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