公益財団法人 東京都医学総合研究所 蛋白質代謝プロジェクト

ホーム > 研究内容 > ユビキチンに関する研究

ユビキチンに関する研究

ユビキチン修飾の構造多様性(ユビキチンコード)の解明

ユビキチンによるタンパク質の翻訳後修飾は、プロテアソーム依存的な分解だけでなく、シグナル伝達やDNA修復、タンパク質の輸送、さらにはオートファジー・リソソーム系による分解など広汎な生命機能を制御することが明らかになってきた。ユビキチンが多彩な機能を発揮することを可能としているのがユビキチン修飾の構造多様性とユビキチン結合タンパク質の多様性である。ユビキチン修飾にはモノユビキチン化と8種類の異なるポリユビキチン鎖、混合鎖、分岐鎖が存在し、さらに鎖長も機能に重要であるため、ユビキチン修飾に内包された膨大な情報はユビキチンコードと呼称されるに至っている(図1)。

図1.ユビキチン修飾の構造多様性と機能 (2017年現在)

私たちは新学術領域研究ユビキチンネオバイオロジー(H24~H28年度)で、新しいMS/MS定量技術であるPRM(parallel reaction monitoring)法をユビキチン鎖の定量に応用し、細胞抽出液のような複雑試料中から8種類のユビキチン鎖を100アトモルの極微量より絶対定量する方法を開発した(図2)(BBRC 2013)。本方法を用いて様々なユビキチン依存的経路を解析すると共に、本方法を応用して、リン酸化ユビキチンやアセチル化ユビキチン、分岐型ユビキチン鎖が細胞内に存在することを実証した(Nature 2014, EMBO Rep 2015, Mol Cell 2016など)。その他、ユビキチンコードの全貌を明らかにするため、ユビキチン化基質の網羅的同定法の改良、ユビキチン鎖長解析法の開発に取り組んでいる。

図2.質量分析計を用いたユビキチン鎖の超高感度絶対定量法(Ubiquitin-AQUA/PRM法)

分岐型ユビキチン鎖の機能

上述の通り、様々な形態のポリユビキチン鎖が広範な細胞機能を制御することがわかってきたが、異なるユビキチン鎖同士が枝分かれした「分岐型ユビキチン鎖」についてはその存在量や役割を含めほとんどわかっていない。そこで、私たちは質量分析技術を用いたユビキチン鎖の定量法を改良し、K48/K63分岐型ユビキチン鎖の定量法を構築した。その結果、細胞内にK48/K63分岐型ユビキチン鎖が予想外に豊富に存在していることを見出した。さらに、K48/K63分岐型ユビキチン鎖が2種類のユビキチンリガーゼ(TRAF6とHUWE1)依存的に、炎症性サイトカイン(IL-1β)の刺激に応答して形成されること、ユビキチン鎖を安定化させることによってNF-κBシグナル伝達を増強することを見出した(図3)。この知見から、異なる鎖同士が分岐を形成することにより新たな機能を発揮し、ユビキチンシグナルが複雑なネットワークを形成していることが示唆された(Mol Cell 2016)。現在、分岐型ユビキチン鎖のさらなる機能解明に取り組んでいる。

図3.K48/K63分岐型ユビキチン鎖による炎症シグナル制御

ユビキチンデコーダー分子の機能解析

基質タンパク質に提示されたユビキチンシグナルはデコーダー分子であるユビキチン結合(UBD)タンパク質によって識別され下流の分子に情報が伝達あされる。しかし、デコーダー分子はヒトでは100種類以上も存在しており、プロテアソーム分解やレセプターのエンドサイトーシス、DNA修復、オートファジー・リソソーム系などの経路でそれらがどのように使い分けられているのか良くわかっていない。そこで、私たちはUBDタンパク質の細胞内局在、相互作用する分子群、識別するユビキチン鎖のタイプを網羅的に解析することで、細胞内のユビキチンネットワークを解明したいと考えている。酵母のUBDタンパク質の解析を進めたところ、Cdc48/p97複合体とシャトル分子RAD23に高いK48鎖選択性があり、このCdc48/p97-RAD23を介した経路がプロテアソーム基質の選別と運搬の大部分(90%以上)を占めていることを明らかにした(Mol Cell 2017)。現在、ヒトでも同様の機構が存在するのか解析を進めると共に、試験管内における再構築を試みている。

図4.Cdc48/p97-Rad23軸によるプロテアソーム分解経路