
このページを印刷
未来を話そう!
プロジェクト研究の紹介
ウイルス感染プロジェクト
手足口病などを起こし、時に重症化するエンテロウイルスについて研究しています

エンテロウイルス属は、ポリオや手足口病などの原因ウイルスです。
いくつか種類があり、多くの場合は深刻な症状を起こしませんが、近年アジアで重症例が多発している「エンテロウイルス71(EV71)」など、一部に病原性が強いウイルスもあります。私たちのプロジェクトでは、エンテロウイルスの病原性について研究しています。
ウイルス感染プロジェクト
小池 智 プロジェクトリーダーが解説します。
Satoshi KOIKE
Project Leader

ウイルス感染プロジェクト
小池 智 プロジェクトリーダーが解説します。
Satoshi KOIKE
Project Leader
どんなことに役立つの?
アジアで流行しているEV71は、いまだワクチンや抗ウイルス薬が開発されていません。
この研究が進めば、EV71やその近縁のウイルスへの感染を防ぐワクチン、さらに感染後の早期治療に役立つ抗ウイルス薬などの開発につながります。
また、そうしたウイルスの流行に関する危険情報を提供するための研究も行っています。

種類と現状
近年の中国では
3年間で2,000人弱の乳幼児が死亡
—— エンテロウイルスにはどんな種類がありますか?
小池ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、その他のエンテロウイルスなどがあり、それぞれいくつかの型が見つかっています。一般に消化管で増殖し、患者の便から感染します。消化管で増殖している間は重い病気を起こしませんが、一部のウイルスは神経組織にまで感染して重い症状を起こすことがあります。小児マヒを起こすポリオウイルスは典型例です。
1950年代にポリオワクチンが開発されて小児マヒは激減しましたが、神経系への感染の拡大がなぜ起こるのかなど、基本的な原理は解明されていません。また、夏に小児を中心に流行する手足口病の原因となるのが、コクサッキーウイルスA16やEV71などのエンテロウイルスですが、重症化することもあるEV71のワクチンや抗ウイルス薬は開発されていません。
—— 手足口病とはどんな病気ですか?
小池その名のとおり、手、足、口に発疹が出ます。多くは1週間〜10日程度で治りますが、まれに中枢神経への合併症を起こして重症化します。急性の髄膜炎や脳炎を起こすことがあり、最悪の場合は死に至ります。
1970年代後半、東ヨーロッパでEV71の流行があり、重い合併症で年間数十人が死亡しました。1990年代後半以降には、マレーシア、台湾、中国などのアジアで大規模な流行が見られるようになり、特に中国では、2009〜2011年に2,000人弱の乳幼児が死亡しています。そのためアジア各国ではEV71ワクチンの開発に力を入れています。
日本でも手足口病は毎年のように流行します。ただし、理由はわかりませんが、重症化するケースはまれです。

原因となるエンテロウイルスはくしゃみなどのしぶきや接触を通じて感染する。
現在の研究成果
EV71が感染する時、細胞ヘの入り口となる受容体を同定
—— EV71のワクチンや抗ウイルス薬の開発は進んでいますか?
小池人の細胞にEV71が侵入する際の入り口となる、ウイルス受容体を同定しました。ウイルスが感染する際は、人の細胞が本来持っている機能をウイルスが勝手に利用してしまうのですが、EV71の場合は、神経細胞に多く発現しているスカベンジャーレセプターB2(SCARB2)という分子を利用していることを明らかにしました。つまり、神経細胞は、EV71が来たら感染しうる状態になっていることが多いのです。EV71がSCARB2と結合して神経細胞に入り、中で増えると、やがてその神経細胞は死んでしまいます。その結果、マヒなどが起こります。
—— 受容体を同定できたことで、どんな進展がありますか?
小池EV71とSCARB2の詳細な相互作用を明らかにし、ウイルス感染を阻止する方法の開発へとつなげることを目標としています。



未来への展望
自作ワクチンを開発。
抗ウイルス薬への応用を目指す
—— さらにどんなことが可能になるのですか?
小池ウイルスは種を超えて感染することはなく、EV71も人には感染しますが他の動物には感染しません。これを「種特異性」といいます。しかし、ワクチン開発のためにはEV71に感染する実験動物が必要不可欠です。そこで、EV71の受容体であるSCARB2を発現する遺伝子改変マウスを開発しました。以前、私たちはポリオに感染するマウスを開発しており、それは現在も世界中で実験動物として使われています。今回は、その時の研究成果を活かしています。これにより、自作のワクチンに効果があるかどうか、有効性試験を行うことができ、ワクチン開発への道が開けました。
—— 今後の目標は?
小池手足口病は集団感染の恐れがあり、もしかかったら保育園や学校を休ませ、親も看病のため会社を休まなければならないなど、社会的損失も決して小さくはありません。日本では重症化することはほとんどないとはいえ、重要な研究の題材であることは間違いなく、海外の研究者とも連携してワクチン開発につなげていきたいと考えています。

流行の初めに「危険情報」を予測して
提供するための研究も行っています

手足口病の流行は毎年起こり、かかった人は免疫を獲得しているはずです。それなのになぜ、時として大流行が起こるのでしょうか。
私たちは、インフルエンザウイルスのように、EV71も変異を起こしているのではないかと推測しています。そこで、いろいろと変異させたウイルスの株を作り出し、「ウイルスの病原性が高くなるのはどんな時か」 を調べる実験をしています。
この研究により、危険な毒力の強い変化が見られた場合は、事前に 「流行にご注意ください」 といった危険情報をお知らせできるようになればと考えています。