2010年7月29日

胃を守るG-カルパインはカルパイン8と9の合体

― 粘膜保護に働く2種類のタンパク質分解酵素の同定 ―
~胃潰瘍などの出血性胃疾患の治療・予防に向けた基盤となる発見~


カルパインプロジェクトは、秦勝志主席研究員を筆頭として、新潟大学脳研究所、国立国際医療センター研究所 消化器免疫研究室、東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命科学専攻、科学技術振興機構との共同研究において、胃潰瘍などのストレス性の胃出血疾患に、胃腸に発現するカルパイン注1)というタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)注2)の機能不全が関与することを世界で初めて明らかにしました。この発見は、ピロリ菌や抗炎症剤によって出血性胃疾患が世界的に急増する中、その発症機序や治療・予防法への重要な手がかりを与えるものです。

この研究成果は、7月29日(米国西部時間)発行の米国科学雑誌「PLoS Genetics(プロス・ジェネティクス)」オンライン版で発表されました。

なお、この研究は、東京都医学研究機構プロジェクト研究費、独立行政法人科学技術振興機構CREST、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究・基盤研究(B)、武田科学振興財団特定研究助成金を活用して行われたものです。

また、下記のメディアで紹介して頂きました:
毎日新聞7月30日夕刊1面、日経新聞7月30日夕刊16面、朝日新聞8月10日朝刊24面読売新聞8月13日夕刊2面
毎日jpウェッブサイト、日経Web刊ウェッブサイト、YOMIURI ONLINEウェッブサイト
テレビ朝日報道ステーション7月30日20時15分頃~
月刊「福祉保健」8月号5頁、福祉保健局ミニ通信295号8月5日1頁
PLoS Genetics Featured Article (July 29-Aug 11) [論文自体はこちら]
SciBX (Science-Business eXchange by Nature Publishing Group) [pdfはこちら]


Hata S, Abe M, Suzuki H, Kitamura F, Toyama-Sorimachi N, Abe K, Sakimura K, Sorimachi H. (2010) Calpain 8/nCL-2 and Calpain 9/nCL-4 Constitute an Active Protease Complex, G-Calpain, Involved in Gastric Mucosal Defense.(カルパイン8と9(nCL-2とnCL-4とも呼ぶ)は活性複合体G-カルパインを形成し、胃粘膜防御に機能する) PLoS Genet., 6, e1001040.


研究の背景

私たちの胃は食べ物やこれに含まれる細菌・ウイルス、胃から分泌される塩酸や消化酵素など日常様々な外的ストレスに曝されますが、胃の表面に粘液分泌を行う複雑な防御システムにより保護されています。その際、胃粘膜の表層を覆うように並ぶ表層粘液分泌細胞が大きな役割を果たします。以前に、カルパイン8とカルパイン9と呼ばれるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)がこの細胞に集中して発現することを見出していましたが(図1)、その理由は不明でした。今回、カルパイン8と9の機能を明らかにするために、これらの一方の遺伝子を破壊したマウス(ノックアウトマウス)を作出し、カルパイン8と9が一体となって胃粘膜防御に関わることを明らかにしました。


 

研究成果の概要

 

研究成果の意義

人間ではカルパイン8とカルパイン9に一塩基多型(SNPs)注3)と呼ばれる遺伝子配列の違いが数種類ずつ様々な頻度で存在します。その一部のSNPsはカルパイン8と9の酵素機能を発揮するための重要な位置に生じており、このSNPsを持つ人では酵素機能が損なわれていることが示唆されました。アルコールの取り過ぎや抗炎症剤の長期摂取など過度のストレスは、しばしば潰瘍性の胃疾患を引き起こしますが、その程度には大きな個人差のあることが知られています。カルパイン8と9のSNPsに伴う酵素機能の損失が、ストレスによる胃疾患のリスクを反映している可能性があり、今後の解析の進展によりカルパイン8と9が胃疾患診断・予防の標的になることが期待されます。


 

用語解説

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