2022年5月5日
認知症プロジェクトの樽谷愛理客員研究員、長谷川成人プロジェクトリーダーらは、「神経変性疾患患者脳に蓄積する病原性タウ、αシヌクレイン及びTDP-43の超微細構造、生化学的分類」について国際科学雑誌「Acta Neuropathologica」に発表しました。
“Ultrastructural and biochemical classification of pathogenic tau, a-synuclein and TDP-43”
「神経変性疾患患者脳に蓄積する病原性タウ、αシヌクレイン及びTDP-43の超微細構造、生化学的分類」
神経変性疾患患者脳では、構造変化した異常型タンパク質が神経細胞及びグリア細胞内に蓄積し、神経細胞死が引き起こされます。神経変性疾患における主要な病因タンパク質であるタウ、αシヌクレイン及びTDP-43が細胞内蓄積する疾患はそれぞれタウオパチー、シヌクレイノパチー、TDP-43プロテイノパチーと総称されます。これらのプロテイノパチー内では多様な臨床症状や病理像が観察され、これらを裏付けるように患者脳から抽出した異常型タンパク質も様々な超微細構造、生化学的性質を示します。興味深いことに、これらの構造、性質は同疾患群内では共通です。疾患を特徴づけるタンパク質の構造、性質を基にした疾患分類は確定診断に有用であるだけでなく、同一プロテイノパチー内における異常型タンパク質の構造多型の存在をも示唆します。本総説では、タウオパチー、シヌクレイノパチー及びTDP-43プロテイノパチー患者脳に蓄積する異常型タンパク質の超微細構造的、生化学的分類について最新の知見を含めて解説しました。
神経変性疾患患者脳で観察されるアミロイド様線維は1960年代に初めて報告され、現在までにそれら線維の3次元構造までが明らかになっています。本総説では患者脳から抽出した異常型タンパク質の電子顕微鏡解析による超微細構造的分類とイムノブロット解析による生化学的分類についてそれぞれのプロテイノパチーごとに解説しました。また、これまでにクライオ電子顕微鏡解析により明らかになった患者脳由来線維の折りたたみ構造についてまとめました。これらの超微細構造、生化学的性質が神経変性疾患実験モデルにおいて引き継がれることは、異常型タンパク質の構造とその多型が病態形成において重要な意味をもつことを示唆します。最後に疾患特徴的な異常型タンパク質病変がどのように患者脳内に広がるか?、どのような因子が構造多型の形成に関与しているか?について考察しました。本総説で示された主要な神経変性疾患の超微細構造、生化学的分類は、神経変性疾患の早期治療及び診断を可能にする疾患修飾薬や抗体療法、分子プローブの開発に貢献することが期待されます。
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