Human SCARB2-Dependent Infection by Coxsackievirus A7, A14, and A16 and Enterovirus 71
(ヒトSCARB2依存的コクサッキーウイルスA7、A14、A16およびエンテロウイルス71の感染)

背景

コクサッキーウイルスA(CVA)2、CVA3、CVA4、CVA5、CVA6、CVA7、CVA8、CVA10、CVA12、CVA14、CVA16およびエンテロウイルス71(EV71)はピコルナウイルス科エンテロウイルス属のA群ヒトエンテロウイルスに分類される。直径28-30nmのエンベロープを有しないウイルスであり、一本のマイナス鎖のRNAをゲノムとして保持している。これらのウイルスのうち、CVA16やEV71などは5歳以下の乳幼児に主に手足口病を引き起こすことが、一方CVA4やCVA8などは、5歳以下の乳幼児に主にヘルパンギーナを引き起こすことが、これまでの疫学的調査から明らかとなっている。手足口病やヘルパンギーナは予後良好な病気ではあるが、EV71が原因の手足口病では、稀に脳炎や急性弛緩性麻痺などの中枢神経疾患を示すことがあるために注意が必要である。近年中国で、エンテロウイルス71の大規模な流行が起こり、およそ1500名の死亡例が報告されている。大流行が起こった国では、その後もエンテロウイルス71に感染した乳幼児が中枢神経症状を示し、死に至る例が毎年報告されるようになる。

我々は、エンテロウイルス71の感染受容体としてScavenger receptor class B, member 2 (SCARB2)を同定した。その後の解析により、EV71と同じ手足口病を引き起こすCVA16もSCARB2を感染受容体として利用することが考えられた。そこで今回、EV71と型別されたすべてのEV71臨床分離株がSCARB2を感染受容体として利用するのか、またEV71と類縁なCVA2、CVA3、CVA4、CVA5、CVA6、CVA7、CVA8、CVA10、CVA12、CVA14およびCVA16の臨床分離株がSCARB2を感染受容体として利用するのかを解析した。

研究結果の概要

1985年から2010年までに、日本国内で分離されたEV71を162株、CVA2を10株 CVA3を22株、CVA4を11株、CVA5を10株、CVA6を13株、CVA8を17株、CVA10を10株、CVA12を9株、CVA14を17株およびCVA16を37株集めた。それぞれの株を、ウイルスが良く増殖するRD細胞、増殖しないL929細胞およびL929細胞にSCARB2を安定発現させたL-SCARB2細胞に感染させ、細胞変性効果(CPE)が出現するかを1週間観察した。その結果、EV71、CVA14およびCVA16のすべての株が、RD細胞およびL-SCARB2細胞の両方でCPEを誘導し、L929細胞にはCPEを誘導しなかった。その他の株は、RD細胞にCPEを誘導したもののL929細胞およびL-SCARB2細胞ではCPEを誘導しなかった。つまり、CVA14、CVA16およびEV71の全ての臨床分離株がSCARB2依存的に細胞に感染する事が明らかになった。

以上の結果から、系統解析上CVA14、CVA16およびEV71と近縁なCVA7もSCARB2を感染受容体として利用していると考えた。そこで、以降の解析にはCVA7のプロトタイプ株を加え、CVA14およびCVA16の代表的な臨床分離株それぞれ1株と共に、さらに解析を進めることにした。まず、small interference RNA (siRNA)を用いてSCARB2の発現を抑制したRD細胞にそれぞれのウイルスを感染させ、ウイルスが感染したかどうかを確認したところ、コントロールに比べウイルス感染細胞が減少していた(図1A)。また、それぞれのウイルスがSCARB2と結合するかを免疫沈降法で確認したところ、ウイルスとSCARB2の結合が確認された(図1B)。以上の結果より、CVA7、CVA14およびCVA16はSCARB2を感染受容体として利用していると結論した。

図1:CVA7、CVA14およびCVA16はSCARB2を感染受容体としている
図1:CVA7、CVA14およびCVA16はSCARB2を感染受容体としている

(A) SCARB2の発現を抑制するためsiRNAで処理したRD細胞(siRNA)とコントロールのsiRNAで処理したRD細胞(コントロール)にCVA7、CVA14およびCVA16を感染させた。感染24時間後に、ウイルスが感染しているかをウイルスの蛋白質に対する抗体で染色して確認した。SCARB2の発現を抑制するとCVA7、CVA14およびCVA16の感染も抑制されていた。
(B) CVA7、CVA14およびCVA16がSCARB2と結合することを確認するために、可溶型SCARB2(SCARB2-Fc)もしくはコントロールのFc(Control Fc)とウイルスを混和し、免疫沈降によりウイルスが共沈降するかを確認した。CVA7、CVA14およびCVA16はSCARB2と結合していた。

研究結果の意義

今回の研究結果を、ウイルスの構造蛋白質のアミノ酸配列を基にした系統樹とそれぞれの株が分離された患者の病名と共にまとめた(図2)。SCARB2依存的に感染することが確認されたCVA7、CVA14、CVA16およびEV71は、同一のクラスターを形成している。また、これらのほとんどのウイルス株は手足口病の患者から分離されていた。つまり、SCARB2を感染受容体として利用しているウイルスは、手足口病を引き起こすことが多い事が明らかとなった。一方で、SCARB2依存的でないクラスターのウイルスは主にヘルパンギーナを引き起こすこともわかった。これらの発見は、これまで臨床症状によって区別されてきた手足口病とヘルパンギーナの病態の違いを分子レベルで説明するための非常に重要なステップと考えられる。

図2:A群ヒトエンテロウイルスの系統樹とそれぞれの株が分離された患者の病名
図2:A群ヒトエンテロウイルスの系統樹とそれぞれの株が分離された患者の病名

CVA7、CVA14、CVA16およびEV71は手足口病の患者から分離されることが多く、すべての株がSCARB2依存性の感染を示していた。

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