がん免疫プロジェクト
Cancer Immunology Project

研究内容 research

私達は免疫システムの解明および新規がん治療法の開発を目標として研究を行っています。人間の免疫システムは極めて巧妙に制御されており、その中枢を担うのがT細胞およびB細胞と呼ばれる細胞です。T細胞とB細胞は細胞表面にがん細胞やウイルス等の病原体を認識できるセンサーが備わっており、それぞれT cell receptor (TCR)、抗体と呼ばれています。これらのセンサーを介して病原細胞、病原体を認識し体内から排除しています。

近年、TCRや抗体の研究はますます重要になってきています。がん細胞を特異的に認識できるTCRはがん治療の臨床試験において目覚ましい成果を挙げ、新型コロナウイルスを中和できる抗体はコロナウイルス感染者に対する新規治療法として注目されています。このように極めて有用性の高いTCR、抗体ですが、有効活用するには高いハードルが存在します。それは私達の体内には膨大な種類のTCR、抗体が存在しており、その中からがんやウイルスに効果を示すTCR・抗体を発見することが極めて難しいことです。

この問題を解決するために、私達はこれまでの研究において数万種類ものTCR・抗体を一斉に同定できる技術を開発してきました[TannoらScience Advances 2020; TannoらPNAS 2020]。本プロジェクトではこの技術を活用することによってがんや感染症の治療に有効なTCR・抗体を発見していきます。

また、TCR・抗体の有益な面ばかり見てきましたが、TCR・抗体も時には体にとって害をなすことがあります。TCR・抗体は何らかの原因で正常な組織を認識し、破壊してしまうことがあり、これは自己免疫疾患と呼ばれています。世界には未だに治療法、予防法が確立していない自己免疫疾患が多数存在しており、その病態メカニズムを解明することが急務です。

上記基盤技術は自己免疫疾患の解明においても威力を発揮します。例えば、私達はこれまでに本技術を駆使することによって自己免疫疾患の一つである視神経脊髄炎スペクトラム障害の病態メカニズムを解明してきました[LiらNeurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2021]。

多くの自己免疫疾患では患者さん体内にどのようなTCR・抗体が存在し、そして何の組織を攻撃しているのかほとんど解明されていません。そこで本プロジェクトでは自己免疫疾患の分子メカニズムも解明し、新規治療薬・診断薬・予防法の開発を目指します。