2015年4月27日 及び 5月11日 東京理科大学 生物科学特別講義III(運河)

1. 細胞がふえるしくみ: シグナル伝達、細胞周期、染色体動態制御の基本

   細胞は外界の環境に応答して、その増殖や分化が制御される。この過程はシグナル伝達と呼ばれる。シグナル伝達機構は細胞の遺伝子発現のプログラムを制御するとともに、細胞周期進行の制御を通じて細胞の増殖プログラムを指令する。細胞周期はDNA合成期と細胞分裂期を交互に繰り返すが、シグナル伝達から複製、細胞分裂へと誘導する分子機構の概要を説明する。その過程で染色体は複製、組換え、分配などの過程を経て大きく変動する。細胞周期進行における、これらの染色体のダイナミックな変化とその制御についても基本を説明する。

2. 細胞ががんになるとき:ゲノムの安定性維持機構とその破綻

   増殖シグナル伝達、細胞周期は厳密に制御される。その破綻はただちに、細胞の異常増殖、種々の染色体異常などを引き起こし、がんなどの疾患あるいは老化の原因となる。本講義では、私達の研究室で行われている、大腸菌、酵母、動物細胞(正常細胞、がん細胞、胚性幹細胞)、個体を用いた染色体DNA複製制御機構および染色体の安定性維持機構の解析についての最新の研究成果を説明し、その分子機構に基づき、これらの過程が発生や分化の過程とどのように関連するか、またその異常がどのように種々の疾患を引き起こすか、更に、研究成果に基づき、提示された疾患の治療の新規の分子標的、制がん戦略・創薬の開発について論じる。

3. 細胞の増殖、運命を決定する染色体ダイナミクスの制御機構:核内染色体高次構造の制御メカニズム

   長大な染色体の複製は、厳密な時間的空間的プログラムに従って秩序正しく進行する。この過程は、核内染色体高次構造の制御と密接に関連し、転写、組換え、修復などの染色体ダイナミクスとも連動する。本講義では、ゲノムワイドの染色体複製開始・進行の時空間制御機構の最新のメカニズムを解説し、さらに、染色体高次構造を制御する新規のメカニズムについての私達の最新の知見を紹介する。

4. 染色体複製の普遍的メカニズム・その起源と進化

   本講義では、大腸菌、分裂酵母、動物細胞さらに変異マウスなど多様なモデル生物を用いた私達の研究から導かれた、原核細胞からヒトまで保存された染色体複製野普遍的メカニズムを解説する。特にゲノムのキャリアである染色体のB型らせん構造以外の特殊DNA構造、核内での高次構築、配置が染色体複製やゲノム機能発現をどのように制御するかについての新規知見を紹介する。最後に、我々の最新の成果に基づきDNA複製の起源と進化についても議論する。