将来流行する可能性のある手足口病ウイルスや熱帯病ウイルス、
そして重篤な肝疾患をもたらす肝炎ウイルスを研究し、
治療法と予防法の開発を目指します。

免疫制御ユニット
山根 大典 ユニットリーダーが解説します。
当ユニットは大規模な組織というより、「一つの研究室」のような存在です。少数精鋭ならではのスピーディーな意思決定と情報共有を活かし、細かなアイデアや独自の仮説をすぐに実験へとつなげられるのが強みです。
世界有数のウイルス研究拠点として、手足口病ワクチンの実用化や将来の流行予測、さらには私たちの体に備わっている「自然免疫」という防御システムがはたらく仕組みに着目した、これまでにない革新的な治療薬の開発に貢献します。
—— ウイルスに感染した時、体の中では何が起きているのですか?
私たちの体には、ウイルスと戦う「インターフェロン制御因子」というタンパク質が司令塔となる「自然免疫」という防御システムがあります。
これまでの研究で、このシステムには2つの役割があることがわかってきました。一つは、感染時に「警報」を出して動き出す「応答性シグナル」。
もう一つは、普段からひっそりと働いている「恒常的な防御層」です。
私たちは、この「常時警戒モード」の防御層を新たに発見したことから、それがはたらく仕組みを詳しく調べています。
これら二つの層がどのように相互作用して感染症を防いでいるのかを明らかにすることで、新しい予防法の開発を目指しています
—— 免疫制御ユニットならではの強みは何でしょうか?
特定のウイルス群を長年深く掘り下げてきた「独自の武器」があります。
—— 「ウイルス感染」と「メタボ」に共通点があるというのは、どういうことですか?
実は、ウイルスは自分一人では増えることができません。細胞に侵入すると、ヒトの「脂質(あぶら)」を勝手に材料や足場として作り変え、自分が増えやすい環境を強制的に作り出します。
例えば、特定の肝炎ウイルスは、細胞が脂質を外に運び出す仕組みを止めてしまいます。すると、細胞の中に脂肪の粒(脂肪滴)が異常に溜まり、顕微鏡で見ると細胞がパンパンに膨れ上がってしまうほどです。
このメカニズムは、食べ過ぎなどによる「メタボリックシンドローム」が起こる仕組みと分子レベルで非常に深く重なっていると考えられます。
そのため、ウイルスが狙う因子を突き止めることで、感染症と脂質代謝疾患(生活習慣病)の両方に効果を発揮する「一石二鳥」の治療薬が誕生するかもしれません。
—— 肝炎ウイルスの研究ではどのような成果があるのですか?
A型からE型まである肝炎ウイルスは、肝臓病や肝臓がんの大きな原因となりますが、これらは実験室で増やすことが非常に難しいウイルスです。
私たちは、前述の「肝臓の環境に近づけた細胞培養システム」を駆使することで、C型肝炎ウイルスの研究を大きく進展させています。
例えば C型肝炎ウイルスを抑制する脂質代謝の仕組みを発見しました。こうした成果を、肝疾患に対する治療薬の開発へとつなげていきます。

—— 今後の研究についてどのような展望をお持ちですか?
私たちは現在、アジアを中心に流行する「エンテロウイルス71(手足口病の原因)」の研究において、国内大手製薬会社と共同で ワクチンの実用化プロジェクト を推進しています。
また、ウイルスの遺伝子配列を解析することで病原性の強さを評価し、将来の流行に対する備えを強化することを目指しています。
ウイルス研究の最大の壁は、ウイルスが「実験室(培養細胞)ではうまく育たない」ことです。
無理に増やそうとするとウイルスが変質(変異)してしまい、本来の薬の効果が正しく測れなくなってしまいます。
私たちは、細胞を肝臓に近い環境に整えることで、変異のない「ありのままのウイルス」を増やすシステムの確立に向けて研究を進めています。この「本物」を相手にする研究こそが、本当に効く薬を見つけ出すための最短ルートなのです。