未来を話そう!プロジェクト研究の紹介

心不全プロジェクト

全身の臓器不全を引き起こす「最初のドミノ」を突き止め、新たな治療の仕組みを見つけ出します

全身の臓器不全を引き起こす「最初のドミノ」を突き止め、新たな治療の仕組みを見つけ出します

心臓の機能が低下する「心不全」は、単にひとつの臓器の病気にとどまりません。心臓の悪化をきっかけに、ドミノ倒しのように次々と全身の臓器が動かなくなっていく、恐ろしい連鎖を引き起こします。

私たちは、この連鎖の「最初のトリガー(引き金)」がどこにあるのかを研究しています 。その仕組みを調べることは、心不全の治療法を探ることはもちろん、体の中がどのように繋がっていて、どう影響しあっているのかを解き明かすことでもあります。

心不全プロジェクト
中山 幸輝 プロジェクトリーダーが解説します。
Yukiteru NAKAYAMA
Project Leader
nakayama

心不全プロジェクト
中山 幸輝 プロジェクトリーダーが解説します。


Yukiteru NAKAYAMA
Project Leader

どんなことに役立つの?

心不全は「心臓だけの病気」ではありません。症状が進むごとに、体のいろいろな機能も落ちていきます。

心臓の病気が、なぜ全身に影響を及ぼすのか。鍵を握るのは、体を守る免疫細胞と、それが生み出されるメカニズムです。この仕組みを解き明かすことで、心不全の悪化を根本から止める新しい治療法の開発を目指しています。

nakayama

心不全のメカニズム

心不全は「負の連鎖」の始まり?

—— 心不全って、そもそもどんな病気なのでしょうか?

心不全とは、心臓のポンプとしての働きが弱くなってしまい、全身に十分な血液を送れなくなる状態のことです。息切れがしたり、体がむくんだり、とても疲れやすくなったりします。 怖いのは、一度良くなって退院しても、また悪くなって入退院を繰り返してしまうことです。また、心臓だけではなく、色々な臓器の機能が悪くなってきます。現在、日本で心不全になる人がとても増えていて、高齢化とともにますます増加すると見込まれています。心不全患者の増加は、介護の問題など、社会にとっても大きな負担となる問題になります。

—— 心不全になると、なぜ完全な健康体にならなかったり、全身に影響が出たりするのですか?

おっしゃる通り、心不全の影響は心臓だけにはとどまりません。腎臓の働きが悪くなったり、筋肉が減ってしまったり(サルコペニアといいます)と、全身のいろいろな臓器にダメージを与えてしまうのです。 心不全は、単なる心臓の病気ではなく、体全体でずっと「炎症」が起き続けてしまう病気だと言えます。そして、その鍵を握っているのが「免疫細胞」だと私たちは考えています。

心不全と免疫細胞

体を守るはずの“パトロール隊”が、攻撃を始めてしまう?

—— 免疫細胞というと、バイキンやウイルスから体を守ってくれるイメージですが……。

そうですよね。私たちの体には、「マクロファージ」という免疫細胞がいて、普段は体の中を見回る“パトロール隊”や、傷んだ細胞を片付ける“お掃除係”として働いてくれています。

ところが、心不全のように心臓に大きなストレスがかかった状態が続くと、このパトロール隊の性格が変わってしまいます。本来は体を守るはずの免疫細胞が「攻撃的」になってしまい、自分自身の心臓や腎臓、筋肉などを傷つけてしまうのです。体を守る仕組みが、逆に病気を悪化させてしまうんですね。

イメージ図:普段の免疫細胞と心不全のときの免疫細胞の違い

免疫細胞の不思議な性質

骨の中の工場で起きている「ストレスの記憶」

—— 守ってくれるはずの免疫細胞が、どうしてそんなに攻撃的になってしまうのでしょうか?

私たちの研究から、とても興味深いことが分かってきました。心臓の病気なのに、骨の中にある「骨髄(こつずい)」という場所まで変化していたのです。骨髄は、血液や免疫細胞の赤ちゃんを作る「工場」のような場所です。

心臓がダメージを受けると、その強いSOS信号が「交感神経」という神経を通って、骨髄の工場まで伝わります。すると、骨髄の工場がその強いストレスを「記憶」してしまい、初めから攻撃的な性格を持った免疫細胞をたくさん作り出すようになってしまうのです。これを「ストレスの記憶」と呼んでいます。

—— ストレスを記憶してしまうなんて、なんだか不思議ですね。

はい。一度記憶が刻み込まれると、心臓の調子が良くなった後でも、攻撃的な免疫細胞が作られ続けてしまいます。それが血液に乗って全身をめぐるため、他の臓器にも悪影響を及ぼし、病気が再発しやすくなってしまうと考えられています。

イメージ図:ストレスの記憶

未来の展望

「記憶をリセットする」新しい治療を目指して

—— もし、その“細胞の記憶”を書き換えることができたらどうなりますか?

まさにそれが私たちの目標です。これまでの治療は「心臓が悪くなったら心臓の薬」「腎臓が悪くなったら腎臓の薬」というように、臓器ごとの治療が中心でした。しかし、もし骨髄に刻まれた「悪い記憶」をリセットすることができれば、全身への悪影響をまとめて防ぐことができるはずです。

心不全になっても、他の臓器を悪くすることなく、全身の回復力を取り戻すような、新しい治療薬の開発を目指して研究を進めています。

—— 最後に、ホームページを見ている方にメッセージをお願いします。

心不全プロジェクトでは、心臓だけでなく、脳や神経、免疫、骨髄といった「全身のネットワーク」がどうつながっているのかを解き明かそうとしています。 人間の体はすべて繋がっています。「専門分野にとらわれず、全身を大きく見渡す」という研究の面白さを、ぜひ皆さんに知っていただきたいですね。


未来の展望

「記憶をリセットする」新しい治療を目指して

—— もし、その“細胞の記憶”を書き換えることができたらどうなりますか?

まさにそれが私たちの目標です。これまでの治療は「心臓が悪くなったら心臓の薬」「腎臓が悪くなったら腎臓の薬」というように、臓器ごとの治療が中心でした。しかし、もし骨髄に刻まれた「悪い記憶」をリセットすることができれば、全身への悪影響をまとめて防ぐことができるはずです。

心不全になっても、他の臓器を悪くすることなく、全身の回復力を取り戻すような、新しい治療薬の開発を目指して研究を進めています。

—— 最後に、ホームページを見ている方にメッセージをお願いします。

心不全プロジェクトでは、心臓だけでなく、脳や神経、免疫、骨髄といった「全身のネットワーク」がどうつながっているのかを解き明かそうとしています。 人間の体はすべて繋がっています。「専門分野にとらわれず、全身を大きく見渡す」という研究の面白さを、ぜひ皆さんに知っていただきたいですね。

写真

少しだけ詳しく!用語解説


造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)

白血球や赤血球など、すべての血液細胞・免疫細胞の元になるお母さん細胞。主に骨の内部にある「骨髄」にいます。

交感神経(こうかんしんけい)

体を活発に動かすときに働く神経。心臓からの強いSOS信号を、骨髄にまで伝える糸電話のような役割を果たしています。

マクロファージ

体の中をパトロールして、ゴミ(異物や死んだ細胞)を食べてくれるお掃除係の免疫細胞。でも、心不全になると攻撃的な性格に変わってしまいます。

サルコペニア

年をとったり病気になったりして、筋肉の量が減り、力が弱くなってしまうこと。

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