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統合失調症にカルボニルストレスを発見
Enhanced carbonyl stress in a subpopulation of schizophrenia.
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Enhanced carbonyl stress in a subpopulation of schizophrenia. Arai M, Yuzawa H, Nohara I, Ohnishi T, Obata N, Iwayama Y, Haga S, Toyota T, Ujike H, Arai M, Ichikawa T, Nishida A, Tanaka Y, Furukawa A, Aikawa Y, Kuroda O, Niizato K, Izawa R, Nakamura K, Mori N, Matsuzawa D, Hashimoto K, Iyo M, Sora I, Matsushita M, Okazaki Y, Yoshikawa T, Miyata T, Itokawa M. Arch Gen Psychiatry. 2010 Jun;67(6):589-97.

今回の研究では、一部の統合失調症に「カルボニルストレス」が関連していることを初めて明らかにしました。研究グループでは、まず、統合失調症患者(45例)の血漿成分を分析し、およそ半数の人(45例中21例)でペントシジンの蓄積が認められ、その場合のペントシジンの値は、健常者の約1.7倍にまで達していることを見出しました。著しいペントシジンの蓄積が見られた症例では、従来の治療では抵抗性を示す症例が多く見られました。また、活性型ビタミンB6(ピリドキサミン)には、カルボニルストレスを消去する効果があることが知られていますが、ペントシジン蓄積を伴った統合失調症患者(21例)のうち、およそ半数の患者(21例中11例)の体内ではビタミンB6が減少していることを見出しました。これは、ビタミンB6がカルボニルストレスを抑制するために動員され、枯渇した結果であると考えられます。今回の研究で、ペントシジンが蓄積し、かつビタミンB6の減少が見られる「カルボニルストレス性統合失調症」は、統合失調症の約2割(45例中11例)を占めることが明らかになりました。また、ヒトの体内には「グリオキサラーゼ代謝」と呼ばれる機構があり、ビタミンB6とは別にカルボニルストレスを消去する働きを担っています。研究グループでは、この機構に関与する酵素の一つであるグリオキサラーゼI(GLO1)に着目し、1,761名の統合失調症患者を含む3,682名の被験者のDNAを用いて遺伝子解析を行ったところ、一部の被験者から酵素活性の低下を引き起こす稀な遺伝子変異を同定しました。この稀な遺伝子変異を伴う統合失調症患者は、カルボニルストレスを伴っていましたが、健常者はカルボニルストレスが認められませんでした。このことは、遺伝子変異を伴う健常者においては、カルボニルストレスを消去する何らかの代償メカニズムが働いていることを示唆しています。今回の発見により、血液中のペントシジンやビタミンB6濃度、あるいはGLO1の遺伝子変異を解析し、これらを生物学的なマーカーとして利用することで、カルボニルストレス性統合失調症の早期診断が可能となります。また、活性型ビタミンB6(ピリドキサミン)は、カルボニルストレス性統合失調症の病態に根ざした治療薬となる可能性があります。さらに、今後、カルボニルストレスを消去する新たな代償メカニズムについて究明することにより、まったく新しい統合失調症の治療法や予防法の開発につながる可能性もあります。

用語説明

カルボニルストレス:
生体内の糖や脂質、蛋白質などが反応性に富んだカルボニル化合物と反応(酸化ストレスなどが影響する)して産生される最終糖化産物(ペントシジンなど)が蓄積した状態のこと。
ペントシジン:
最終糖化産物のひとつ。ペントシジン以外にもカルボキシメチルリジンやピラリンと呼ばれる物質なども知られている。
活性型ビタミンB6(ピリドキサミン):
水溶性の生理活性物質であるビタミンB6(ピリドキサミン、ピリドキシン、ピリドキサール)の化合物のひとつ。
グリオキサラーゼ代謝:
反応性に富んだカルボニル化合物を生体内で解毒するシステムのひとつ。最終糖化産物が蓄積するのを防御する代表的な代謝の経路
治療抵抗性統合失調症:
作用機序の異なる2種類以上の抗精神病薬を、十分な量、十分な期間投与しても症状が改善しない統合失調症の一群。1998年にKaneらが定義した。
無顆粒球症:
顆粒球減少症とは、顆粒を有する白血球(主に好中球)が極端に減少し、重篤な感染症にかかりやすくなることをいう。無顆粒球症とは、顆粒球がほとんど認められない重症の顆粒球減少のこと。
PANSS:
Positive and Negative Syndrome Scaleの略。全世界で最も使用されている統合失調症の精神症状評価尺度。
AGEs受容体(Receptor for AGEs: RAGE):
細胞膜1回貫通型の受容体。免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、AGEsの他にS100/calgranulins、amphoterin、A-β、HMGB-1などがリガンドとして知られている。
分泌型RAGE(soluble receptor for AGEs: sRAGE):
細胞膜貫通領域が欠損するタイプのRAGE。膜に存在するRAGEと異なり、血中を循環している。マトリックスメタロプロテアーゼでRAGEが切断されて生じるタイプと、選択的スプライシングによって生じる endogenous secretory RAGE (esRAGE)の2種類が知られている。
マトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase、MMP):
活性中心にZn2+やCA2+などの金属イオンが存在しているタンパク質分解酵素の総称。RAGEを切断するMMPとしては、MMP-9やADAM10が知られている。
選択的スプライシング:
DNAからmRNAが転写される過程において、ある特定のエクソンがスキップされてスプライシングが行われること。スキップされるエクソンの組み合わせによって、複数のmRNAが生成されることになり、生物の多様性に寄与しているものと考えられている。
endogenous secretory RAGE (esRAGE):
RAGE遺伝子の選択的スプライシングによって生じる分泌型RAGEであり、エクソン10がスキップする。

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