感染制御プロジェクト

安井 文彦 プロジェクトリーダーが解説します。

Fumihiko YASUI

Project Leader

kakei

感染制御プロジェクト

安井 文彦 プロジェクトリーダーが解説します。

Fumihiko YASUI

Project Leader

どんなことに役立つの?

万が一の流行に備えて、強い免疫誘導効果が期待されるH5N1型インフルエンザ向け予防ワクチンの実用化を目指しています。
また、感染後、時間が経過し、重症化した感染者にも効くインフルエンザ治療薬も実用化が期待されています。

C型肝炎ウイルスの治療ワクチンの開発研究も進んでいます。今後は、根治が難しいとされる慢性B型肝炎の治療ワクチンの開発も期待されています。肝硬変、肝がんの治療法についても研究を進めています。

yasui
ワクチン開発

より強い免疫力がつくワクチンの開発を目指して

 

—— インフルエンザウイルスの研究についてお聞かせください。

安井インフルエンザウイルスについては、高病原性鳥インフルエンザの一つ、H5N1型の予防ワクチンの研究を2009年から進めています。H5N1は感染すると重症化することが多く、死亡率も高いものです。通常の季節性インフルエンザと同じ方法で作ったワクチンでは、効果が弱かったため、より免疫誘導効果が高い全粒子不活化ワクチンが備蓄されています。それでもなお、十分な免疫力をつけるためには、複数回接種する必要があるといった問題があります。

2009年の豚由来のインフルエンザの大流行を見てもわかるように、人から人へ伝播(でんぱ)が起こると、瞬く間に世界中に広がってしまいます。そこで、私たちは1回の接種で速やかに強い免疫を誘導できるワクチン開発を目指してきました。

また、治療薬の研究も進めています。現在の治療薬は感染後48時間以内に服用しないと効果がでませんが、現在の治療薬とは作用メカニズムの異なる、時間がたって重症化した患者さんでも治せるような新しい治療薬の開発を目標にしています。

H5N1発生国と発症者数
図表:2017年9月27日WHO(世界保健機関)発表に基づき、厚生労働省が作成した資料を参考に作成

—— C型肝炎ウイルスについてはどうでしょうか?

安井前プロジェクトリーダーの小原道法博士の下でC型肝炎研究が長年進められてきました。小原博士は、当時、診断法がなかったC型肝炎の診断薬の開発に携わってきました。

C型肝炎ウイルスの中で、遺伝子型Ib型ウイルスは治療が困難でしたが、近年、効果的な治療薬が開発され、患者さんの90%以上は治るようになりました。しかし、非常に高価で、手厚い健康保険制度がある日本のような国は別として、世界的には、本治療薬を利用できる人はそれほど多くありません。また、原因が定かではないため治療できない患者さんの問題もあります。そこで、私たちはC型肝炎ワクチンの開発に取り組んできました。以前から、B型・C型肝炎の患者さんが突然治癒する事例の臨床報告を受けており、C型肝炎ウイルスへの免疫を活性化するワクチンによってウイルスを排除できないかと考えたのです。予防ではなく、“治療のためのワクチン”です。また、ワクチンは安価に提供でき、多くの患者さんが利用できるという大きな利点もあります。

研究の進捗

強い免疫を誘導することで感染症を治す

 

—— インフルエンザワクチン開発の進捗(しんちょく)はいかがですか?

安井インフルエンザウイルスが、人や動物の細胞に感染する時にウイルス表面にあるHAタンパク質(ヘマグルチニン)が必要となることに注目し、HAタンパク質をターゲットとするワクチンの研究を進めてきました。高い安全性を持つ「ワクシニアウイルス」というワクチン株にH5N1インフルエンザウイルスのHAタンパク質の遺伝子を組み込んだ「組換え生ワクチン」を作ることにすでに成功しています。

H5N1亜型ウイルスは、非常に多くのウイルス株が存在し、複数のクレード に分類されています。備蓄されているプレパンデミックワクチンは、クレードごとに作る必要があるのですが、検証の結果、「クレード2.2」のワクチンでH5N1ウイルスの多くのクレードに対応できることが明らかになりました。一種のワクチンで、H5N1のインフルエンザすべてを防御できることが期待されます。

*クレード
インフルエンザウイルスは、遺伝的に安定ではなく、血清亜型が変わることはないが、遺伝子が変化して、病原性や抗原性などが変化する。現在までに、H5N1亜型ウイルスは、数千の株が分離されており、僅かな抗原性の違いによっていくつかの種類(クレード)に分けられている。

組換え生ワクチンが作成されるまで
ヒトで接種された実績のあるワクシニアウイルス株を感染させた初代ニワトリ繊維芽細胞の中に、ワクシニアウイルス遺伝子断片内にインフルエンザウイルスHAタンパク質遺伝子を組み込んだプラスミドベクターを導入すると、ニワトリ繊維芽細胞内で相同性のある(DNAの塩基配列の似ている)遺伝子配列部分で組換えが起こり、インフルエンザウイルスHAタンパク質遺伝子を持つ、組換えワクシニアウイルスができあがる。この組換えウイルスを精製し、増殖させてワクチンとする。

—— 肝炎の治療ワクチンの研究はどの段階にあるのでしょうか?

安井C型肝炎ウイルスの治療ワクチンは、30年近く世界各国の学者が研究してきたのですが、なかなか成功しませんでした。

しかし、私たちは最近、C型肝炎ウイルスのウイルス粒子を作るタンパク質(構造タンパク質)とウイルス増殖のためのタンパク質(非構造タンパク質)をターゲットとした異なる種類のワクチンの接種方法や接種する順番を変えることによって、非常に強い免疫を誘導できることを発見しました。現在、C型肝炎ウイルス遺伝子をマウスのゲノムの中に組み込んだトランスジェニックマウスを用いて、効果の検証を進めており、C型肝炎ウイルスのタンパク質を減少できることと症状を改善できることがわかってきました。

*トランスジェニックマウス
受精卵に人為的に外来遺伝子を導入し、マウスのゲノム内に外来遺伝子を組み込んだマウス。トランスジェニックマウスでは、組み込まれた遺伝子からできるタンパク質などの性質や機能を解析できる。私たちの研究では、通常、マウスが感染しないC型肝炎ウイルスの遺伝子をマウスのゲノム内に組み込むことで、C型肝炎を発症させ、ワクチンの効果を解析している。

—— 研究で苦労された点は?

安井アイディアを証明する段階で動物モデルが必要な点ですね。治療が難しい疾患は、得てして、研究を進めるうえで重要かつ最適な動物モデルが存在しないことが多いです。B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスは、宿主域が狭く、人とチンパンジーにしか効率良く感染しません。そこで、C型肝炎の研究では、先ほどお話ししたトランスジェニックマウスで治療効果を検証しています。人での使用を考えるうえでは、さらに、人に近い動物モデルの開発と治療効果、安全性を確認したいと思います。

未来への展望

重症化インフルエンザも、B型・C型肝炎も治る時代に

 

—— 今後の研究についてどのような展望をお持ちですか?

安井H5N1ワクチンは、製薬会社と一緒に人に使えるものを作りつつあるところです。次の段階は治験。数年で実用化の目途が立つようにし、万が一の事態に備えたいですね。

いずれは、中国で感染が広がりつつあるH7N9ウイルスへのワクチンや毎年流行する季節性インフルエンザについても、免疫誘導効果の高い新規ワクチンを開発していきたいです。

肝炎ウイルスの治療ワクチンも、実用化に向けて製薬会社と相談をしていこうというところです。B型肝炎ウイルスの治療ワクチンの開発も進めていきたいですね。また、肝硬変の治療薬の開発も良好な結果を得ることができてきましたので、さらに研究を発展させたいと思います。