学習や記憶にまつわる神経回路や分子経路の働きを細かく調べて明らかにし、さらに老齢化などに伴う記憶障害の原因を探ります
学習や記憶にまつわる神経回路や分子経路の働きを細かく調べて明らかにし、さらに老齢化などに伴う記憶障害の原因を探ります
学習記憶プロジェクト
齊藤 実 プロジェクトリーダーが解説します。
プロジェクトでは乳がんを一つのターゲットに、その発症メカニズムを追いかけています。がんが発症する原因の一つに、細胞が分裂するときのDNAの損傷や変異があります。私たちはDNAがどうやって変異していくのか、そしてその変異がどのように引き起こされるのかを研究しています。DNA複製や変異のメカニズムを解明できれば、乳がんなどの病気を直す新しい治療法が見つけられるかもしれません。
—— 学習・記憶は、脳内でどのようなメカニズムでなされているのですか。
脳が担う学習や記憶は、1個の細胞や分子の働きだけではなく、さまざまな細胞や分子の組み合わせで行われます。こうした組み合わせがどのようにできるのかはまだわかっておらず、それが私たちにとっての重要な研究テーマになっています。
—— 学習や記憶に決定的な影響を与えているものは何なのでしょう。
ヒトのみならず、芸を覚える犬や鳥、ショウジョウバエのような単純な動物なども学習や記憶をします。ショウジョウバエの研究から動物の遺伝子が学習や記憶に決定的な影響を与えていることを、シーモア・ベンザーというアメリカの研究者が明らかにしています。
私たちは、ショウジョウバエの突然変異体や遺伝子組み換え体を用いて、どのような遺伝子やタンパクが学習や記憶に関わっているのかを研究しています。
—— ショウジョウバエの学習・記憶能力を測る「匂い連合学習」はどんなものですか。
ショウジョウバエに、ある匂いを嗅がせながら電気ショックを与え、別の匂いを嗅がせている間は電気ショックを与えないという異なる状況も作ります。これらの状況を繰り返すうちに、ハエは電気ショックの際に嗅いだ匂いを危険な匂いであると学習し、その匂いを避けるようになります。これが「匂い連合学習」です。
学習記憶機能を失った突然変異体や遺伝子組み換え体を使うことで、ショウジョウバエの学習記憶機能の変化や、どのような分子が学習記憶機能に関係しているかも突き止めることができます。
—— 学習記憶に大事だといわれるNMDA受容体* は、どういった役割をするのですか。
ショウジョウバエの記憶獲得に重要な分子であるNMDA受容体が、カルシウムイオンを透過させるか否かはマグネシウムイオンの働きに左右され、透過を阻止することはマグネシウムブロックと呼ばれています。これまではこのブロック機構が、記憶のオン・オフのスイッチの役割を果たしていると考えられてきました。
—— この研究で何がわかったのですか。
マグネシウムブロックは記憶そのもののスイッチではなく、1時間程度持続する短期記憶を、1日以上持続する長期記憶として固定化するためのスイッチであることを明らかにしました。
同じくショウジョウバエの研究から、軽度の空腹状態は長期記憶形成を促進するうえで重要な役割を果たすこともわかりました。
—— ショウジョウバエの研究はヒトにも役立つのでしょうか。
研究からどうしてその病気が起こるのかが、理解できるようになります。さらにショウジョウバエでわかった事実をマウスなどの哺乳類を使って検証し、その成果をヒトへつなげていくことが可能です。
たとえば、加齢による記憶障害はショウジョウバエでも起こります。私たちはその原因となる遺伝子のいくつかを突き止めることに成功しました。
—— どんな遺伝子ですか。
ショウジョウバエでは、「DC0(ディーシーゼロ)」という記憶に重要な役割を担う遺伝子から作られるPKAという酵素が、年を取った時に若い時のままの活動をしていると記憶力が阻害されます。さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼという酵素は年齢を重ねるにつれて活性化しますが、その活性が増えすぎると記憶力を衰えさせます。
こういった遺伝子や酵素の働きをコントロールすることで、少なくともショウジョウバエでは学習・記憶が改善します。
こうした基礎研究は、ヒトの学習・記憶のメカニズム解明にも重要な示唆を与えることになります。
—— ショウジョウバエの研究はヒトにも役立つのでしょうか。
研究からどうしてその病気が起こるのかが、理解できるようになります。さらにショウジョウバエでわかった事実をマウスなどの哺乳類を使って検証し、その成果をヒトへつなげていくことが可能です。
たとえば、加齢による記憶障害はショウジョウバエでも起こります。私たちはその原因となる遺伝子のいくつかを突き止めることに成功しました。
—— どんな遺伝子ですか。
ショウジョウバエでは、「DC0(ディーシーゼロ)」という記憶に重要な役割を担う遺伝子から作られるPKAという酵素が、年を取った時に若い時のままの活動をしていると記憶力が阻害されます。さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼという酵素は年齢を重ねるにつれて活性化しますが、その活性が増えすぎると記憶力を衰えさせます。
こういった遺伝子や酵素の働きをコントロールすることで、少なくともショウジョウバエでは学習・記憶が改善します。
こうした基礎研究は、ヒトの学習・記憶のメカニズム解明にも重要な示唆を与えることになります。
動物の学習・記憶についての研究は、10年ほど前までは脳の神経細胞1個ずつにガラス電極を挿入し、神経細胞の活動性を測定する手法が用いられてきました。しかし、この方法では脳のどの領域の変化が重要なのかを明らかにすることが困難でした。
近年、脳の神経細胞の活動の変化によって色が変わるプローブが導入され、色の変化を顕微鏡で観察するイメージング解析技術が開発されました。私たちのプロジェクトでは、従来の光学顕微鏡に比べて高い解像力を持つ多光子レーザー顕微鏡に改良を加え、わずか10分の1㎜ほどのハエの脳についても、その神経活動を光で測定できる新しい実験システムを開発したのです。これによって、ショウジョウバエの脳の研究に多くの成果をもたらすことができました。