研究内容の紹介
睡眠研究の課題1
睡眠障害の多くは病因未解明であり、治療は対症療法にとどまっています。我々は重度の眠気を呈する「ナルコレプシー」や「特発性過眠症」といった中枢性過眠症に注目し、その病態解明をすすめております。
注目する理由は
- ナルコレプシーは日本人に多い(600人に1人)
- 中枢性過眠症は深刻なQOL低下を伴う
- 病因が睡眠・覚醒中枢自体の機能異常であるため、その解明がすべての睡眠障害の理解や治療に役立つからです。
研究紹介1 ナルコレプシーの病態解明 臨床検体研究
<研究の背景>
ナルコレプシーの病態基盤にオレキシン神経系(覚醒中枢のひとつ)の消失があります。しかしなぜオレキシン神経系が消失するか未解明です。ナルコレプシー典型例は特定の白血球型(HLA-DQB1*06:02) を持ち、また感染症やワクチン接種後に増加します。(図) ナルコレプシーの発症解明には遺伝因子と環境因子の研究が必要です。

<研究の成果>

遺伝因子:
日本人を対象に全ゲノム遺伝子解析(GWAS)による解析を行ったところ、HLA遺伝子領域との非常に強い関連に加え、あらたなナルコレプシー関連遺伝子CPT1B, CRATが見つかりました。

環境因子:網羅的DNAメチル化解析(EWAS)
DNAのメチル化状態は、遺伝因子と環境因子によって変化します。
疫学研究ではなく、DNAメチル化解析によってナルコレプシー発症に関わる環境因子の検討を行いました。

末梢血液由来のDNAを用いた検討では、脂質代謝の経路に関わる遺伝子のメチル化状態が変化していました。
脳組織(オレキシン神経が局在する後部視床下部組織)由来のDNAを用いた検討でも、脂質代謝の経路に関わる遺伝子のメチル化状態が変化していました。

GWAS, EWASすべての解析を通じて、共通してナルコレプシーと脂肪酸代謝異常との関連が示唆されました。