Tomita Y, Suzuki K, Yamasaki S, Toriumi K, Miyashita M, Ando S, Endo K, Yoshikawa A, Tabata K, Usami S, Hiraiwa-Hasegawa M, Itokawa M, Kawaji H, Kasai K, Nishida A, Arai M. Urinary exosomal microRNAs as predictive biomarkers for persistent psychotic-like experiences. Schizophrenia (Heidelb). 2023 Mar 11;9(1):14. doi: 10.1038/s41537-023-00340-5.
思春期の6人に1人がPLEsを経験しますが、ほとんどは成長とともに無くなることが報告されています[1]。一方で、思春期後半になってもPLEsが持続する場合にはその後に精神疾患を発症する可能性が高いことが知られています[2]。したがって、思春期においてPLEsが、一過性で無くなるのか、その後も持続するのかをより早い段階で予測することが重要であると考えられます。しかしながら、そのようなバイオマーカー4) を探索する研究がこれまで十分になされていませんでした。
本研究は、東京ティーンコホート(http://ttcp.umin.jp/)と連携し、345名の思春期児童を対象に行いました。研究開始時(13歳時)と1年後(14歳時)の2時点で、アンケートによる調査と精神科医による面接を行い、PLEsの有無や程度を評価しました。研究開始時には尿検体も提供していただきました。345名の児童のうち、2時点ともPLEsの評価ができた児童は282名でした。そのうち、PLEsが研究開始時にはあったが1年後には無くなった児童(PLEs消退群)は62名、研究開始時から1年後まで持続した児童(PLEs持続群)は15名でした。
次に、PLEs持続群15名と年齢・性別を合わせたPLEs消退群15名において、研究開始時の尿中エキソソーム含有miRNAの発現量を比較しました。その結果、PLEs持続群では6種類(hsa-miR-486-5p, hsa-miR-199a-3p, hsa-miR-144-5p, hsa-miR-451a, hsa-miR-143-3p, hsa-miR-142-3p)のmiRNA発現量が有意に低いことが分かりました(図1)。さらに、その6種類のmiRNA発現量を用いて1年後もPLEsが持続するかどうかについて検討したところ、PLEs持続群を高い精度で予測できました。以上のことから、尿中エキソソームが精神病の発症リスクの高さを予測できる可能性が示されました(図2)。
年齢を調整した尤度比検定5) によって算出された持続群で発現量が変化したmiRNA を示した図。縦軸は検定結果の信頼度(p値)、横軸はどれだけ発現量が変化していたか(Fold change)を示す。PLEs消退群と比較すると、PLEs持続群では研究開始時において6種類のmiRNAの発現量が有意に低かった。
ロジスティック回帰モデル6) によるPLEsの持続の予測がどれだけ正答していたかを示す図。縦軸はPLEs持続群であるケースをどれだけ正確に検出できたか(感度)、横軸はPLEs持続群ではないケースをどれだけ正確に検出できたか(特異度)を示す。線が左上方に寄っているほど高い予測性能を持つとされるが、この図から、6種類のmiRNAの発現量を使ったモデルが最も高い予測性能を持つことがわかる。AUC:Area Under the Curvesの略。モデルの予測精度を示す値で、1に近いほど高い精度を示す。
思春期にPLEsが持続する場合には、早い段階からの適切な支援が大切ですが、これまでそのような状態を予測することは容易ではありませんでした。今回の研究で用いた尿検体は、痛みを伴わずに採取できるため、被験者にとって受け入れやすい検査だと考えられます。また、尿中エキソソームを用いることにより、精神病を発症するリスクの高さを早期に発見できる可能性が分かりました。将来、6種類のmiRNAの機能を詳細に検討することによって精神病の発症メカニズムの一端が明らかとなり、より適切な支援や予防に役立つ情報を得ることができるかもしれません。