書籍紹介

脳と心の摩訶不思議 やさしいカラー図解 統合失調症 統合失調症という問い‐脳と心と文化‐ ヒッピーのはじまり

まえがき

心はどこにあるのかと問われたら、多くの人は脳と答えるのではないだろうか。DHAサプリは脳にいいので頭の回転がよくなる。脳のセロトニンが減るとうつ状態になる。脳トレで記憶力を鍛える。このように、マスメディアには心は脳次第といった情報が氾濫している。

トイプードルや手乗り文鳥が嬉しそうに鳴いたり寂し気な表情をするのは、これらに小さな脳があるから不自然とは思わない。いっぽうで、石灯籠(いしどうろう)やタクシーに心を感じないのは、-これらに脳がないから当たり前だと思う。現代人にとって心と脳の関係とは、このようなものではないだろうか。

しかし、私たちがこんなにも脳と心を強く結びつけるようになったのは、たかだかここ数十年のことである。本書では様々な例をあげて、心と脳が密接に関連するという、屈託なく思い込んでいる現代人の信念を疑ってみた。

私は30年以上にわたって脳の研究をしてきた。また、ほぼ同じ年数を精神科医としても過ごしてきた。それこそ、30年前の駆け出しのころは、心は脳の機能のひとつだくらいに私も思っていた。ところが、脳の研究や精神科医を続けていると、心と脳の結びつきがしばしばゆらぐことがある。それらを一冊にまとめてみたのが本書である。「脳と心の摩訶不思議」と銘打った所以(ゆえん)である。

読者のみなさんは本書を読み終わるあたりで、脳は心の一部でしかないことに気づかれるであろう。そして、‟脳以外の心‟という不思議をごく身近に感じとられるようになるのではないだろうか。『脳と心の摩訶不思議』より

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