Asakura M, Toriumi K, Nozaki A, Yang J, Tatsuzaki J, Suzuki K, Miyashita M, Itokawa M, Arai M. Anthocyanins as potent inhibitors of pentosidine synthesis: Antioxidant-mediated effects. Biochem Biophys Res Commun. 2024 Dec 25;740:151007. doi:10.1016/j.bbrc.2024.151007. Epub 2024 Nov 15. PMID: 39571231.
doi:10.1016/j.bbrc.2024.151007
終末糖化産物(AGEs)は、糖がタンパク質や脂質と非酵素的に反応して生成される糖化修飾体であり、その一つであるPENは、老化や糖尿病、アルツハイマー病などの疾患との関連が報告されています [1]。PEN形成を阻害することは、これらの疾患の予防や治療において有望な戦略と考えられますが、既存のAGEs阻害剤は副作用の問題から実用化が進んでいません [2]。そのため、安全性の高いPEN阻害剤の開発が求められています。
当研究室では、統合失調症患者の一部で末梢血中のPEN濃度が健常者と比較して有意に高いことを報告しています [3]。さらに、統合失調症におけるPENの前駆物質としてグルクロン酸(GlcA)を同定し、統合失調症の分子病態を模倣するPENのin vitro合成系を確立しました [4]。このシステムを活用することで、PEN合成阻害剤の効率的なスクリーニングが可能となりました。
これまで、AGEs合成を阻害する天然化合物に関する研究はあるものの、大規模な化合物ライブラリーを用いたPEN合成阻害剤の探索は行われていませんでした。本研究では、植物由来の天然化合物ライブラリーを使用し、PENのin vitro合成系を活用したスクリーニングを行うことで、PENの阻害化合物を探索しました。このアプローチは、統合失調症を含むPEN蓄積関連疾患に対する新しい治療戦略や、副作用の少ない予防薬の開発につながる可能性があります。
独自に開発したPEN合成系を利用して、93種類の天然化合物をヒト血漿試料に添加し、PEN量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定することで、PEN合成阻害効果を評価しました。その結果、47種類の化合物がPEN合成を50%以上抑制し、うち8種類が80%以上の抑制効果を示しました(図1A)。フラボノイド基本構造を持つ化合物は、持たない化合物よりも有意に強い阻害効果を示しました。特に、PEN阻害効果が最も高かった5つの化合物(C1〜C5)はすべてアントシアニン類に分類され、その中でもPetunidin chloride(C1)はPEN合成を約90%阻害しました。
(A).PENはヒト血漿をGlcAとインキュベートすることによりin vitroで合成されます。PEN合成系に天然化合物(C1-C93)を加えることにより、PEN合成阻害剤をスクリーニングしました。PEN合成量は、コントロールを 1 とした相対量で表しました。フラボノイドの基本骨格を持つ化合物で強い阻害活性が認められました。
(B) 最も強い阻害効果を示したPetunidin chloride (C1)の構造を示します。
さらに、既存薬ピリドキサミンとC1の半数阻害濃度(IC50)を比較した結果、C1のIC50値はピリドキサミンの約85分の1であることが明らかになり、C1がピリドキサミンよりも低用量で効果を発揮する可能性が示されました(図2)。この結果は、C1がPEN蓄積型統合失調症に対する新規治療薬の候補となり得ることを示唆しています。
様々な濃度のPetunidin chloride(C1)またはピリドキサミンを、2 mM GlcAを含むヒト血漿とインキュベートしました。インキュベーション後のPENの量を、コントロールに対する相対スコアとして示しました(塩化ペチュニジンIC50 = 0.22 mM、ピリドキサミンIC50 = 18.80 mM)。
また、PENを含む多くのAGEsの合成に酸化プロセスが関与していることから、天然化合物の抗酸化活性とPEN阻害効果の関連を調べました。その結果、PEN阻害効果と酸化還元吸収能力(ORAC値)の間に有意な相関が認められ、抗酸化能が強い化合物ほどPEN阻害効果も高いことが確認されました(図3)。このことは、PEN合成阻害効果が化合物の抗酸化特性に部分的に依存している可能性を示唆しています。
PEN合成阻害効果(C1〜C77)を示す天然化合物の抗酸化能力を定量し、PEN合成阻害能との相関を確認した。
これらの結果は、PEN蓄積に関連する疾患、特に統合失調症に対する新たな治療戦略の基盤を提供するとともに、安全性の高い予防薬の開発につながる重要な知見を提供するものです。