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低亜鉛血症を伴う統合失調症の臨床的特徴
Schizophrenia with hypozincemia: clinical features and symptom severity.
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Tabata K, Toriumi K, Suzuki K, Takagi H, Parida IS, Niizato K, Oshima K, Imai A, Nagase Y, Hashimoto R, Yamasaki S, Nishida A, Itokawa M, Takahashi H, Miyashita M, Arai M. Schizophrenia with hypozincemia: Clinical features and symptom severity. Schizophr Res (2025) 286: 45915.
doi: 10.1016/j.schres.2025.10.013

発表のポイント

研究の背景

統合失調症は多様で複雑な病態をもつ精神疾患であり、現在も客観的なバイオマーカーが確立されていません。既存の抗精神病薬に反応しない症例が約3割存在することから、病態の異質性が強く示唆されています。そのため、統合失調症の中でも比較的均質なサブタイプを同定する新たなバイオマーカーの探索が求められています。
亜鉛は300種以上の酵素の活性化に必要な補因子であり、抗炎症、抗酸化、内分泌・免疫などの多彩な生理作用を有しています。近年のメタ解析により、統合失調症患者では健常者と比較して血清亜鉛濃度が低下していることが報告されており、その中には未治療の初回エピソード精神病や慢性期の患者も含まれていました。しかしながら、低亜鉛血症を伴う統合失調症がどのような臨床的特徴を示すのかについては不明なままでした。そこで本研究では、低亜鉛血症が関連する統合失調症患者の臨床的特徴を明らかにすることを目的としました。

研究の内容

本研究では、497名の統合失調症または統合失調感情障害の参加者において血清亜鉛濃度を測定し、臨床的特徴や症状の重症度との関連を調査しました。その結果、参加者全体の68.0%に低亜鉛血症が認められました。低亜鉛群と非低亜鉛群の臨床的特徴を比較したところ、低亜鉛群では年齢が高く、罹病期間が長く、入院患者の割合が高いことが明らかとなり、入院期間や入院回数も有意に多いことがわかりました。また、症状の重症度を評価するPANSSでは、陽性症状尺度、陰性症状尺度、総合精神病理尺度、合計スコアの全てが有意な高値を示し、低亜鉛群の方がより臨床的重症度の高い状態にあることが示されました(表1)。一方、性別、HbA1c、eGFR、家族歴、教育歴、発症年齢、抗精神病薬の服薬量(Chlorpromazine換算, CP換算)については有意差はみられませんでした。

表1: 低亜鉛患者の臨床特徴
表1: 低亜鉛患者の臨床特徴

次に、血清亜鉛濃度と症状の重症度の関連を明らかにするため、回帰分析を行いました(表2)。その結果、血清亜鉛濃度はPANSSの陽性症状尺度、陰性症状尺度、総合精神病理尺度、合計スコアの全てと有意な負の相関が認められました。年齢、入院回数、服薬量で調整したところ、陽性症状尺度、総合精神病理尺度、合計スコアとの関連については統計的な有意性が維持されました。

表2: 血清亜鉛値とPANSSスコアの回帰分析
表2: 血清亜鉛値とPANSSスコアの回帰分析

さらに、感度分析として統合失調感情障害の参加者を除外し、統合失調症のみの477名で解析を行いましたが、低亜鉛血症の割合(67.9%)や血清亜鉛濃度と症状の重症度との関連はほぼ同様に再現されました。

今後の展開

本研究の結果、統合失調症では血清亜鉛濃度が単に低下しているだけではなく、亜鉛が臨床的重症度や特定の精神症状に関与する可能性が示唆されました。本研究結果を踏まえると、統合失調症の中でも「低亜鉛血症」と「臨床的重症度が高い」という2つの特徴を伴うサブタイプの患者を同定することにより、そのような一部の患者において、亜鉛の栄養治療が既存の薬物治療の限界を補う可能性が期待されます。ただし、本研究は横断デザインであり、さらなる関連性の検証にはより大規模な縦断的研究の実施が必要です。


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