公益財団法人 東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野
依存性物質プロジェクト|東京都医学総合研究所
Addictive Substance Project



ドーパミン研究



ドーパミンによる精神疾患への関与および、行動の制御に関する研究

ドーパミンは神経伝達物質の一つで、人格、運動、動機づけなど、極めて重要な脳機能を担っています。加えて、統合失調症や注意欠陥多動性障害(ADHD)などの精神疾患とも深く関わっています。 私たちは、ドーパミンが疾患とどのように関連するのか、またどのような機序で行動制御を担っているのかを明らかにするために、ドーパミントランスポーターノックアウトマウス(DATKOマウス)と、ドーパミン欠乏マウス(DDマウス)を用いて研究を行っています。


DATKOマウスの研究


【図1. DATKOマウスの多動とMPHの抑制効果】
野生型マウス(+/+)及び、DATヘテロKOマウス(+/-)は、新奇環境下では移所運動量が徐々に減少するのに対して、DATKOマウスでは運動量が高いままである。矢印で示す時間にMPH(30mg/kg)を投与すると、野生型およびヘテロマウスでは運動量が亢進するのに対して、DATKOマウスでは運動量が顕著に減少する。
DATは、神経細胞の終末の前シナプスから放出されたドーパミンを、細胞内に再取り込みする働きをしています。 DATKOマウスではドーパミンが取り込まれず、細胞外のドーパミン濃度が高くなり、ドーパミン神経伝達が亢進します。 これに起因して、DATKOマウスは、多動、注意欠如、学習障害、衝動性など顕著なADHD様の行動を示します。

DATKOマウスにADHDの治療に広く用いられているメチルフェニデート(MPH)を投与すると、多動が抑制されましたが、これに対し、野生型マウスにMPHを投与すると、活動量が亢進しました。このことは、ADHD患者ではMPHによって多動が抑えられるのに対して、健常者では逆に活動量が亢進することと類似しています。 また、多動だけでなく、DATKOマウスで認められる学習障害も、MPHによって改善することが見出されました。 (図1)

MPHはDATおよびノルエピネフリントランスポーター(NET)を阻害する作用を有しています。運動制御に関わる線条体では、DATがドーパミン再取り込みを担っています。 したがって、野生型マウスでは、MPHでDATが阻害されると、線条体ドーパミン量が上昇し、活動量の亢進が引き起こされます。 これに対し、DATKOマウスではDATがないため、MPHを投与しても線条体のドーパミン量は変化しません。一方、前頭前野では、DATが発現しておらず、NETが主にドーパミン再取り込みを担っているため、野生型、DATKOマウスともにMPHによってドーパミン量が上昇します。 前頭前野でドーパミン神経伝達が亢進することが、MPHによるDATKOマウスのADHD様行動の改善と関係しているのではないかと考えられます。

このように、DATKOマウスはADHDのとてもよいモデル動物で、これを用いることで病態メカニズムの解明や、治療薬開発を目指した研究を行っています。


DDマウスの研究


【図2. L-ドーパ投与中止72時間後におけるDDマウスの多動】
L-ドーパ投与24時間後(DD24h)では、移所運動量の低下が認められるが、L-ドーパ投与中止72時間後(DD72h)では、徐々に運動量が増加し、実験終了時(360分)まで高いままである。

DDマウスは、ドーパミンやアドレナリンなどのカテコラミンの合成酵素の一つであるチロシン水酸化酵素の遺伝子を欠損させ、さらにアドレナリン神経細胞やノルアドレナリン神経細胞でチロシン水酸化酵素を発現するように遺伝子を組み換えたマウスです。 このマウスはドーパミンを作ることができないため、通常は生後2週齢ほどで死んでしまいますが、ドーパミン前駆体であるL-ドーパを毎日投与することで生き続けることができます。

成獣まで維持したDDマウスに対して、L-ドーパ投与を中止すると、24時間後では脳内にはまだドーパミンはわずかに残存していますが、72時間後には検出限界以下のレベルまで欠乏します。 L-ドーパ投与中止24時間後、72時間後に新奇環境下における活動量を調べたところ、24時間後では活動量の著しい低下がみられましたが、72時間後では予想外なことに、活動量の亢進が認められました(図2)。 活動量の亢進は、非定型抗精神病薬の一つであるクロザピンで抑えられることがわかりました。クロザピンの作用は多岐にわたりますが、その中でもアセチルコリン系を活性化させる作用が、活動量の抑制に関わっていることがわかりました。 実際に、DDマウスの線条体ではアセチルコリン濃度の低下およびアセチルコリン合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼの発現の減少が観察されており、アセチルコリン系の変化が活動量の増加に関係する可能性が考えられます。

ドーパミン量と活動量とは、従来は比例関係にあると考えられてきましたが(図3A)、DDマウスの研究からドーパミン量が極端に減少すると活動量が亢進することが見出されました(図3B)。 ドーパミンが極端に減少した際の行動とそのメカニズムを解明し、ドーパミンがどのようにして行動の制御を行うのか、その真の機序を明らかにすることを目指した研究を行っています。


【図3.ドーパミン量と活動量の関係に関する新旧モデル】
(A)従来のモデル。ドーパミン量が増えると活動量が上がり、上がり過ぎると精神病症状が現れ、抗精神病薬によってドーパミン量を下げれば症状が抑えられる。逆に、ドーパミン量が減ると活動量が下がり、極端に減少していくとパーキンソン病症状を引き起こし、L-ドーパを投与するとドーパミン量が増えて症状が抑えられると考えられていた。
(B)新しいモデル。DDマウスの研究結果から、ドーパミン量が極端に減少するとむしろ活動量が上昇し、この異常行動はクロザピンによって抑制されることが見出された。


^