講演要旨
加齢依存的な神経活動の時間構造変化は,睡眠調節障害と密接に関連している。しかし,このプロセスの分子的・生物物理学的基盤は完全には解明されていない。私たちは,加齢によって神経活動パターンが変化し睡眠調節障害を引き起こすメカニズムの解明を目指している。ショウジョウバエの概日時計ニューロンをモデルとし,睡眠の質を制御する神経活動パターンの安定性が加齢に依存することを最近報告したが,概日時計ニューロンだけでなく,ショウジョウバエの睡眠恒常性神経回路においても,加齢依存的な動的不安定性の増強が引き起こされることがわかってきた。これらの結果から,加齢による動的不安定性の増大が,睡眠調節における神経活動パターンの調節異常の計算論的基盤である可能性があると考えている。また,膜電位の動的不安定性を制御するために,"OptoMagForce"と呼ばれる手法について紹介し,この手法が脳の生理学的出力における動的不安定性の原因特定に有用なツールに成り得るかどうか議論したい。以上から,本セミナーでは,加齢による脳の動的不安定性の生物物理学的メカニズム,睡眠調節に悪影響を及ぼす加齢による動的不安定性の分子機構,OptoMagForceを用いた加齢依存的な脳の動的不安定性の制御法の確立に向けた試みについての可能性を議論したい。
- 参考文献:
- 1.Tabuchi et al., Curr Biol 5(6):702-712. (2015), 2. Tabuchi et al. Cell 165(6): 1347-1360. (2018), 3. Nguyen et al. Front Physiol, 13:845236 (2022), 4. Ho et al, Curr Biol 32(22): 4957-4966. (2022), 5. Tabuchi, Neurosci Res, doi.org/10.1016/j.neures.2023.06.009 (2023).