講演要旨
睡眠は身近な現象だが「眠気とは何か?」や「なぜ寝ないと体調が悪くなるのか?」などの素朴な疑問に対する科学的な答えはない。さらに、哺乳類の睡眠は複雑に進化した睡眠構築(レム睡眠とノンレム睡眠から成るサイクル)を有し、夢という独特な意識状態も生成するが、その意義やメカニズムも大きな謎である。私たちはこれまでに、レム睡眠の意義の解明を目指し、マウスを用いた遺伝学的なアプローチをとってきた。マウスの睡眠構築制御を担うニューロンを同定し、レム睡眠を操作できるマウスや、まるで夢を演じるかのようにレム睡眠中に動き出すマウスを作ることに成功した。
その結果、レム睡眠の操作は、記憶学習能力やストレス抵抗性に影響を及ぼすことが見えてきた。また最近は、分子生物学の有用なモデル生物である線虫の睡眠の分子機構が、哺乳類のノンレム睡眠と深く保存されていることを見出した。そこで、線虫での遺伝学的アプローチにより、動物普遍的な睡眠の意義やメカニズムの解明に取り組んできた。
本セミナーでは、睡眠の役割とは何か、生物の進化や疾患などの観点から、これまでの成果について紹介させていただく。
- 参考文献:
- 1.Hayashi et al., Science 350, 957-961 (2015), 2. Funato et al. Nature, 539, 378-383 (2016), 3. Kashiwagi et al. Curr. Biol., 30:1002 (2020), 4. Tsai et al, Cell Reports, doi: 10.1016/j.celrep.2021.109558 (2021), 5. Miyazaki et al, iScience, doi:10.1016/j.isci.2022.104452 (2022),