体内時計プロジェクト
Circadian Clock Project

なぜ記憶能は加齢に伴い低下するのか?

演者 殿城 亜矢子
千葉大学大学院薬学研究院 准教授
会場 医学研 4Fセミナー室
日時 2024年6月25日(火曜日)14:00~15:30

講演要旨

加齢に伴う記憶障害(Age-related Memory Impairment:AMI)はヒト、マウス、ショウジョウバエ、線虫など多くの種で報告されているが、そのメカニズムは未だに不明な点が多い。モデル動物であるショウジョウバエは、老齢個体を得やすく、記憶能力の評価が容易である。私たちはこれまでにAMIのハエモデル系を用いて、加齢に伴い記憶を維持する能力が低下すること、記憶の種類によって加齢の影響が異なること、高脂肪食摂取により記憶能が低下することなど、様々な点でAMIの種を超えた共通性が見られることを明らかにしてきた。

最近私たちはハエAMIモデルを用いた遺伝学的スクリーニングを行い、一酸化窒素―可溶性グアニリル酸シクラーゼ経路がAMIに関与することを見出した。また、AMIは加齢による睡眠障害とも密接に関連している。老齢個体の睡眠障害の改善を指標に、小分子化合物や天然物化合物のスクリーニングを行い、いくつかの睡眠制御化合物の同定に成功した。これらの化合物をもとに、加齢による睡眠障害のメカニズムや記憶低下との関与の解明に取り組んでいる。

本セミナーでは、遺伝学的あるいは薬理学的なin vivoスクリーニングや解析から明らかとなってきたAMIの新規関連因子やメカニズムについてご紹介させて頂きたい。


参考文献:
1. Hou et al., Sleep., 46(5):zsad018 (2023)
2. Tonoki et al., Aging Cell., 21(9):e13691 (2022)
3. Tonoki et al., JNeurosci., 40(11):2296-2304 (2020)
4. Tanabe et al., Cell Reports., 18(7):1598-1605 (2017)
5. Tonoki and Davis., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 109 (16), 6319-24 (2012)