体内時計プロジェクト
Circadian Clock Project

新規睡眠誘引遺伝子「nemuri」の発見 〜一寸の虫にも満たない生き物がおしえてくれること〜

演者 戸田 浩史
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 助教
会場 オンライン
日時 2021年9月3日(金)13:00~15:00

講演要旨

睡眠はあらゆる動物に備わっている生命現象であるが、その本質的な機能や分子制御メカニズムは、驚くほど謎につつまれたままである。大型の哺乳動物を用いた先行研究から、睡眠時の脳波計測を取得することで、睡眠の現象論的な記述は数多く成されてきた。しかしながら、大型の動物を用いて睡眠の遺伝学的な分子メカニズムに探るのは、扱いの不便性から、モデル生物として必ずしも有用な手段とはいえないでいた。

ショウジョウバエは、過去100年を超える遺伝学の蓄積から、遺伝子レベルで詳細にメカニズムを追うのに非常に適しているため、発生や免疫、行動(求愛行動、概日リズム、記憶・学習)の分野において、非常に華々しい成果をあげて続けているモデル生物である。それは睡眠の分子メカニズムも例外ではない。今から約20年前、米国の2つの研究室がほぼ同時期に、ショウジョウバエの行動をつぶさに観察したところ、5分以上の静止状態はただ単に静止しているだけでなく、「睡眠」様の行動であることを示すことを発見した。それ以来、ショウジョウバエを用いた変異体スクリーニングから、様々な変異体が同定され、睡眠を維持する重要な遺伝子がいくつか同定されてきた。この中には、実際に、睡眠異常をきたすヒト家系のGWAS研究から同定された相同遺伝子も存在する。

今回のセミナーでは、自らがおこなったスクリーニングから同定した新規睡眠誘引遺伝子’nemuri’とその機能に関してご紹介したい。