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2022/4/12

コロナ禍におけるアルコール関連死

文責:橋本 款

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による自粛の影響で外での飲酒の機会は減ったにもかかわらず、帰宅後の飲酒量が増えたという人がおられるかも知れません。今回は、米国においてCOVID-19によるストレスの増加に伴う深酒の影響で、アルコール関連死が増加したという論文(文献1)が「JAMAネットワーク・オープン」に掲載されましたので報告致します。その機序としては、COVID-19によるストレスの影響で深酒量が増えることにより、肝機能不全、アルコール依存症による中毒が原因となると考えられています(図1)。我が国においては、まだ、このような報告はありませんが、英国における似たような結果がネットで発表されていることから、 (https://www.businessinsider.com/deaths-from-alcohol-spiked-during-covid-19-lockdown-2021-2)、恐らく世界中に普遍的な現象であると思われます。したがって、COVID-19に関連したアルコール障害には十分に注意しておく必要があります。


文献1.
White AM et al, Alcohol-Related Deaths During the COVID-19 Pandemic JAMA, Published online March 18, 2022


背景・目的

COVID-19パンデミックの1年目において、自粛下におけるストレスに対処するための飲酒量が増加し、その結果アルコールによる肝臓病・肝移植、さらに、アルコール依存症による緊急入院が増えたことが知られている。これらのことから、本研究は、コロナ禍においてアルコール関連死が増加した可能性を検討することを目的とした。

方法

2019年から2020年までは、国立衛生統計センター(National Center for Health Statistics)*1の16歳以上の死亡データ、2021年の前半期の暫定的なデータはアメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)*2の疫学研究のための広範囲オンラインデータ(Wide-ranging Online Data for Epidemiologic Research)を利用して、COVID-19パンデミック下でアルコールが原因となった死亡例について検討した。死亡診断書は死亡に寄与した疾患を20まで記載してあった)。

結果

SARS-CoV-2感染有る無しの2つのグループに対するイメージングの結果を継続的に比較すると、いくつか有意差のある結果が得られた。

  • 2019年から2020年まで、アルコール関連死は、78,927人から99,017人と25.5%の増加したのに対して、すべての死亡例は2,823,460人から3,353,547人へと18.8%の増加にとどまった。
  • 年齢別では、35~44歳で10万人当り、22.9人から32.0人と39.7%の増加、25~34歳では、11.8人から16.1人と37.0%の増加が見られた。男女間に有意差は無かった。
  • 原因疾患別では、アルコールに起因する肝機能不全による死亡が、24,106人から29,504人へと22.4%の増加、アルコール依存症による精神・行動異常が原因となる死亡が、11,261人から15,211人へと35.1%の増加, 鎮痛剤の過剰摂取による死亡*3が、8,503人から11,969人へと40.8%増加した。
  • 2020年の間、2,042の死亡診断書がアルコール、あるいは、COVID-19が死亡の直接の原因と記載していたにすぎなかった(1,475人がCOVID-19を、323人がアルコール中毒を背景とされていた)。このことから、COVID-19は直接的でなく、むしろ、関接的に作用するケースが多いと推定された。

結論

本研究の結果より、COVID-19パンデミックにおけるストレスに対処するための飲酒量が増加し、その結果、アルコールによる肝機能不全、さらに、アルコール依存症などによる緊急入院が増え、アルコール関連死が増加したと推定される。アルコール対策をCOVID-19の治療戦略に組み込むことが好ましい。

用語の解説

*1. 国立衛生統計センター(National Center for Health Statistics)
全米保健医療統計センターの一部門。米国の保健医療統計の中核をなし、特に当センター刊行の死亡率/平均余命に関する統計的調査レポートは広く注目されている。主要刊行物は、1.「米国保健医療(Health, U.S.)」、2.「米国の生命に関する統計(Vital Statistics of the U.S.)」、3.「州別平均余命データ(Decennial Life Tables)」等。>
*2. アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)
ジョージア州アトランタにある保健福祉省所管の感染症対策の総合研究所。
*3.
米国では、医療用鎮痛剤「オピオイド」の過剰摂取による死亡率は転落や交通事故、溺死による死亡率を上回る。

今回の論文のポイント

  • COVID-19パンデミックにおけるストレスが飲酒量を増加させた結果、アルコールによる肝機能不全やアルコール依存症などによるアルコール関連死を誘発させました。
  • このように、COVID-19には肺炎やその合併症などのウイルスの直接的な作用だけでなく、アルコール関連死などパンデミックがもたらす関接的な作用も念頭に入れておく必要があります。

文献1
White AM et al, Alcohol-Related Deaths During the COVID-19 Pandemic JAMA, Published online March 18, 2022