• HOME
  • 所長 あいさつ

所長 あいさつ

Hisao Masai Photo

正井 久雄

公益財団法人 東京都医学総合研究所は、それぞれ40年近くの歴史を刻んだ、東京都の3つの研究所(精神研、神経研、臨床研)が2011年に合併し、誕生しました。この間、研究所の一体化が進行し、大都市東京を取り巻く健康に関する諸問題に、多様な側面から取り組んだ、独自の研究体制が確立されました。

東京都は、日本の縮図、未来図の象徴として、超高齢化社会、ストレス社会がもたらす数多くの健康に関する諸問題に直面しています。都医学研の使命は、最先端の生命科学、医学の研究を通じて、これらの問題に対する解決策を提供し、都民の生命と健康を守り、首都東京の保健・医療・福祉の向上に貢献することであります。

女性の平均寿命が90歳に達しようとする超高齢化社会においては、認知症、がん、生活習慣病などの疾患を予防し、発症を遅らせ、健康寿命を延ばすことが最も重要な課題となります。さらに5~39歳の死因の第一位は自殺であることに示されるように、現代ストレス社会において、心の健康をいかに維持するかは、もうひとつの重要な課題です。世界レベルでは、最も多い死因である感染症は、日本では、死因の順位としては低いですが、肝がんの80%はB型あるいはC型肝炎ウィルスが原因であるとともに、2020年初頭に発生した新型コロナウィルスのような新興感染症の勃発の脅威に常にさらされています。これら感染症の予防、治療法を開発するとともに、緊急時の対応ができる体制を整えていくことが必要です。ゲノム医療に代表される、個別医療にも対応するため、独自のゲノム医学研究を推進します。ゲノム研究は未知の難病や、疾患の病因解明、診断・治療法の開発にも貢献します。また、社会環境が、心の健康にどのような影響を及ぼすかは、ストレス社会において、解明すべき課題です。長期にわたる大規模疫学研究を行い、社会・生活環境と病気の関連も解明しています。また、難病の患者や高齢者の患者の看護・ケアシステムの整備も大きな課題であり取り組んでいます(図参照)。

都医学研では、このような医学研究に対する社会の多様な要請に対応するため、これまでに例を見ない、独自の融合的な医学研究を推進しています。しかし、その基盤は、最新の設備と環境に裏打ちされた確固たる基礎研究であることは言うまでもありません。医学の発展、そして我々の生活に革命をもたらした技術開発の歴史を振り返ってみると、フレミングによる抗生物質の発見を筆頭として、組換えDNA技術、遺伝子増幅PCR法、そして未来の遺伝子治療への応用も期待されるゲノム編集技術など、いずれも基礎研究の過程で、偶然発見された、あるいは、基礎研究の成果が思いもかけない形で応用されることにより、開発されたものです。生命現象の本質、あるいは疾患の根本的な分子基盤の解明こそ、人類の生活に恩恵をもたらす真に革新的な技術の開発、いわゆる「人に役立つ研究」への最も近道であると言えます。
都医学研は、これらのことを踏まえた上で、基礎、臨床医学そして社会医学の研究者が強力に連携することにより、種々の疾患の予防、診断、治療法の開発と、健康寿命の増進と患者のQOL (クオリティ・オブ・ライフ; 生活の質)の向上を目指しています。そして、 高度な設備と研究環境を有する、国際的に広く認知された研究所、そして、東京の文化を代表し、都民の皆様が誇りに思うような研究所になることを目指します。

これらを実現させるために、プロジェクト研究体制を敷き、短期、中期、長期の研究課題、目標を明確に設定し、効果的な研究を推進しています。プロジェクト研究体制では、研究の進捗状況について、毎年、学識経験者らを含む外部評価委員による評価を受け、必要な修正をしつつ最も効率的な研究を追求しています。そして、得られた成果は、迅速に公表して都民と共有し、その健康・福祉の向上に貢献するように努めています。
また、都民の健康や、疾患治療に対するニーズにより直接的に応えるために、都立病院との連携も重要です。このため都医学研では、病院等連携研究センターが中心となって、都立病院等と共同研究を進めています。上に述べた、ゲノム研究を推進するゲノム医学研究センターは病院と密接に連携し、疾患予測、予防、診断、治療法の基盤となる発見を目指していく予定です。また、社会健康医学研究センターを2020年度から開設し、社会環境が健康に及ぼす影響を、より長期的な視野にたって解析するとともに、高齢者、難病患者の介護、ケアについてより効果的、かつ患者さんのQOLの向上に貢献するシステムの開発を目指しています。
さらに、都民の皆様に向けたアウトリーチ活動にも力をいれています。当研究所では、研究活動を公開し、多くの方にその内容を知っていただくことを、重要な任務の一つと位置付けています。都民講座、サイエンスカフェ、中・高校生への講義・研究所公開、などを通じて研究成果の公開、あるいはサイエンスに親しんでいただく場の提供を行っています。今後、さらにこれらの活動を充実させて、より広く、私たちの研究活動を皆様に知っていただくよう、一層の工夫を凝らしたいと思っています。

都医学研では、分子生物学、細胞生物学、生化学、遺伝学、神経生物学、免疫学などの研究を行う基礎科学研究者とともに、種々の疾患を専門とする臨床に直結した医学研究者、心の健康や、看護を対象とする社会医学系研究者が、三位一体となり、まさにその名のとおりの総合的な医学研究を行うという、世界でも例をみない医学研究所を目指しており、今後の医学研究の規範となるものと考えています。
都医学研の発展には、都民の皆様を始めとして、引き続き多くの方々の御支援・御指導が必要です。どうかよろしくお願い申し上げます。

大都市東京の都民を取り巻く健康問題と都医学研の取り組み

図_都医学研の取り組み
高齢化社会に伴い増加する、がん、認知症をはじめとする多くの疾患、新興感染症を含む種々の感染症、ストレス社会に付随する様々な精神疾患、原因不明の難病などに有効に対応するため、まず、基礎研究に立脚したメカニズム解明に取り組みます。その成果に基づき、疾患の予測、予防、診断、治療、創薬の新戦略を開発します。