現代は、科学技術が発達し、より便利で快適な生活ができるようになりましたが、その一方で、現代社会は、ストレス社会と言われ、ストレスが多くの疾患を促進することがわかってきました。中でも、過酷な労働条件、人間関係のトラブルなどのいくつかの要因がストレスになり、それが引き金になってうつ病を発症することが多いと言われています。職場においては、ストレスの重大性が認識された結果、定期的にストレスチェックが行われ、過剰なストレスが疑われる場合は産業医の診察を受けられるようになりました。このようにして、ストレスによるうつ病などの発症の防止には一定の効果が認められたと思われますが、そのメカニズムが不明である以上、治療も消極的にならざるを得ず、うつ病に対しては、職場においては、配置転換、労働時間の短縮などが行われ、従来の薬物療法が行われるに過ぎません。また、ストレスチェックや産業医の診察も、ややもすれば、主観的になる可能性があることを否定できません。したがって、ストレスによるうつ病などの発症のメカニズムを分子レベルで理解し、それに基づいた治療を行う必要があると思われます。このような状況で、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学のFlurin Cathomas博士らは、慢性的なストレスにより、末梢血の単球におけるMMP8の発現が上がり、MMP8が脳内に侵入して微細構造を変化させ、それがうつ病の原因となることを示し(図1)、Natureに報告しました(文献1)。これらの結果は、MMP8がストレスによるうつ病などの発症に対するバイオマーカーとしても有用で、治療標的になる可能性を示唆し、今後の展開が注目されます。
文献1.
Circulating myeloid-derived MMP8 in stress susceptibility and depression, Cathomas F et al. Nature 626, 1108–1115 (2024)
精神的なストレスは、脳や免疫系に重大な影響があると考えられている。多くの前臨床的、及び、臨床的な研究は末梢の免疫細胞系の変化が大うつ病などストレスに関連した疾患とリンクしていることを示してきたが、そのメカニズムは不明であり、それを理解することが本研究の目的である。
これらの研究結果は、ストレスという点から見ると、末梢の免疫系の因子が中枢神経系の機能や個体の行動に影響を及ぼすことを確立するものである。末梢系の免疫細胞由来のMMPが、ストレスによるうつ病などの発症の防止をする治療法における新しい治療標的になるかも知れない。