神経変性疾患の研究分野で、アミロイド蛋白(アミロイドβ、α-シヌクレインなど)に対する免疫療法と共に精力的に行われてきたのが疾患のバイオマーカー(Biomarker)*2に関する研究です。言うまでもなく、神経変性疾患の診断や治療効果の指針として役立つような分子を同定することが目的ですが、これに関連して、最近、注目されてきたのがExosomeです。Exosomeは、細胞から放出される細胞外小胞で、タンパク質、DNA、RNAなどの生体物質を運んでおり(図1)、生理的な、及び、病理的な細胞間のコミュニケーションに重要な役割を担っていると考えられています。興味深いことに、Exosomeは脳血液関門を通過できることから、血清中のExosomeは脳の状態を反映しており、血清Exosomeの含まれる分子が神経変性疾患のBiomarkerになる可能性があると思われます。このような考えに基づいて、台湾タイペイ医科大学のChien-Tai Hong博士らは、PD患者さんと健常者由来の血清Exosomeを解析するコホート研究を行ない、いくつかの蛋白のPDの進行と有意に相関することを報告しましたので、今回はその論文(文献1)を紹介致します。
文献1.
Plasma extracellular vesicle synaptic proteins as biomarkers of clinical progression in patients with Parkinson’s disease: A follow-up study
Chien-Tai Hong et al.,medRxiv Posted June 04, 2023
シナプスの機能不全はPDを含む神経変性疾患の病態において中心的な役割を占めるが、細胞外小胞(Extracellular vesicle)の蛋白質はBiomarkerとしての重要性が認識され始めている。本研究は、血清Exosome中のシナプス蛋白の、PDのBiomarkerとしての有効性、PDの進展との相関性を評価することを目的とした。
PD(PwP)101人、健常者(HCs)43人の計144人が登録された。
これらの結果は、血清Exosome中のシナプス蛋白が、PDの進行度に対する臨床的なBiomarkerとして使える可能性を示唆している。しかしながら、予後に対するBiomarkerとして使えるかどうかは、より長期間のフォローアップをして判断する必要がある。