ADは、発症前ADの段階から、軽度認知障害(MCI)を経て、ADによる認知症の発症と進行性の経過をたどりますが、現時点で、進行したADに対する根治療法は存在しないので、有効な早期治療を行うには正確な早期診断が必要になってきます。しかしながら、早期ADの鑑別診断は容易ではありません。脳血管性認知症やレビー小体型認知症などAD以外の認知症との鑑別はよく言われますが、あまり話題にならないのが、ADと鬱病の鑑別です。鬱は65歳以下で発症するEOADの初期症状の一つであり、EOADにおける鬱症状と鬱病の病態は似ており(図1)、さらに、鬱病は統合失調症と共にメジャーな精神疾患の一つで頻度の高いものですから、当然、誤診されやすくなります。今回、紹介致します論文(文献1)においては、中国大連医科大学のMeichen Liu博士らが、鬱病として治療していた患者さんが9年後にEOADであることが判明した症例を報告し、この経験に基づいて、神経心理学的検査と、いくつかの画像診断を組み合わせることが初期ADのスクリーニングに重要であろうと述べています。
文献1.
Early-onset Alzheimer’s disease with depression as the first symptom: a case report with literature review.
Liu M et al.,Front. Psychiatry 14 (2023) 1192562.
ADは、ありふれた神経変性疾患であるが、65歳以下で発症するEOADの患者さんは、しばしば、非典型的な症状を呈するので、診断を誤ったり、見逃したりしやすい。したがって、非侵襲的で定量的解析に優れた多用な神経画像検査が、診断やその後のフォローアップに重要になってきた。本論文では、著者らが経験した症例報告を通してこれを検討した。
我々が報告する患者さんは、59歳の女性で、46歳の時に発症した鬱症状により、50歳から59歳まで鬱病として治療を受けていたが、53歳の時に、記憶力の喪失、見当識障害*2を発症し、最終的に痴呆状態になり、最近、EOADと診断された。
EOADは鬱を初期症状として発症し、しばしば、非典型的な症状を呈するため、誤った診断をされがちである。神経心理学的検査と画像診断を組み合わせることがADの診断に効果的であった。